植物Q&A

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花粉の性質

質問者:   高校生   MH
登録番号4429   登録日:2019-05-21
高校の授業で花粉について学びました。そこで、出た質問です。
花粉は植物細胞で細胞壁があるはずなので形が変形することは難しいと思うのですがどうして、受粉した時に水が浸透して伸びることができるのでしょうか。

答えていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
MHさん

みんなのひろば「植物Q&A]へようこそ。質問を歓迎します。
この質問に対する回答を、植物細胞壁を研究している西谷和彦博士(神奈川大学理学部教授)にお願いしました。

【西谷先生のご回答】
変形し難いはずの細胞壁で囲まれた花粉管が、水を吸って伸びるのはなぜかというMHさんの疑問は、細胞壁の本質を突いた重要な問ですね。
MHさんは「細胞壁があるはずなので形が変形することは難しい」という前提で考えておられますので、まず、その点からお答えします。
植物細胞壁は変形し難い性質を持つのは確かですが、同時に、必要な時には自在に変形できる性質を併せもっています。この一見、矛盾するような二つの機能を併せもつのが植物細胞壁の最も重要な特徴なのです。この高度な機能により、細胞が成長する時期には細胞壁は変形しやすくなり、その時期が過ぎると変形し難くなるように、うまく制御することができるのです。花粉管が雌しべの中を伸長し続ける際には、細胞壁は変形しやすい状態が維持されているといことになります。
花粉管の細胞壁の変形のしやすさの制御メカニズムについて、現在広く受け入れられている仮説を紹介しておきます。発芽前の花粉細胞は球状で、発芽時には球状の細胞壁表面の一点のみが突出します。突出した部分には細胞内部から細胞壁成分が分泌され、花粉管が筒状に伸びます。この時、先端部分に向けて分泌される主要な細胞壁成分はペクチンという多糖類です。ペクチンはガラクツロン酸というカルボキシ基を持った高分子です。カルボキシ基には、メチルエステル化されている状態と、されていない状態とがあります。花粉管先端部に分泌されるペクチン分子中のカルボキシ基は、高い頻度でメチルエステル化されています。分泌された後、ペクチンメチルエステラーゼという酵素により、適宜メチルエステル基が除去されます。メチルエステルが除去されたカルボキシ基は負電荷をもちます。そこに二価の陽イオンであるカルシウムイオンが結合すると、そのカルシウムイオンが橋渡しとなり、二つのカルボキシ基を通して二分子のペクチンが連結されます。一つのペクチン分子は多数のカルボキシ基をもつので、それらを介して、また別のペクチン分子にも繋がることができます。こうして、多数のペクチン分子がカルシウムの架橋を通して、巨大なネットワーク状超分子になります。このようにそれ自体が高分子のペクチン多糖類が沢山連結して超高分子になるとゲル化して、細胞壁を硬くすることにより、細胞壁の伸びやすさが制御されているというのがこの仮説です。この仮説によれば、ペクチンメチルエステラーゼという酵素は花粉管の細胞壁を硬くして伸びにくくする一方、その酵素の働きを阻害する蛋白質などの因子により細胞壁を変形しやすい状態が保たれているということになります。
雌しべの中を花粉管が伸び続ける上で、もう一つ重要なことは、花粉管の内部の浸透圧を、花粉管の通り道となる雌しべの花柱の細胞間隙の浸透圧よりも常に高く保たなければならないことです。そうしなければ、浸透圧により花粉管が水を吸って細胞壁を押し広げて成長することができないためです。そのために、花粉管は雌しべの中の糖類や塩類などの養分を花粉管内に積極的に取り込んでいます。こうして、花粉管内の浸透圧を雌しべ内よりも常に高めに保つことにより、花粉管内の膨圧を維持し、その圧力により伸びやすい状態にある細胞壁を押し広げて伸び続けていると考えることができます。
細胞が伸長する仕組みは、上に書いたほど単純なものではなく、その仕組みの詳細は、未だに十分には解明されていませんが、(1)細胞壁は時々刻々変化して変形のしやすさを変えていること、(2)花粉管の細胞壁の変形のし易さにはペクチンが関与していること、(3)細胞が伸長するには外界よりも細胞内の浸透圧が高いことが必須であること、などは確かだと思います。現時点では、あいまいな部分がまだ数多くありますが、より深い理解を求めて、研究が続けられています。




西谷 和彦(神奈川大学理学部教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2019-06-10
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