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なぜ桜の枝を切ってはいけないのか

質問者:   大学生   葉羽栄兎
登録番号4644   登録日:2020-02-10
 先日、植物好きの祖母と植物の再生能力について話していた際、「桜切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿」ということわざがある事を聞きました。祖母に尋ねると、桜の枝は切っても新たな枝が生えてこないが梅では生えてくる、と言われました。
 インターネットで調べていて桜の枝は切り口から菌が入って枯れてしまうが、梅の枝を切っても切り口が腐る事はあまりない、という内容が多いように感じました。
 枝が生えてくるどうかは、どちらかというと、梅では剪定によって頂芽からのオーキシンによる作用が無くなるために腋芽から分枝が伸びてくるのに対し、桜ではそもそも切り口から枯れてしまう、という違いなのではないかと思うのですが、もしそうだとしても、なぜ梅の枝は切り口から枯れる事はないのに、桜は枯れてしまうのか、という疑問を抱きました。桜の枝では比較的傷害応答が起こりにくい、等の違いがあるのでしょうか?
 また、自然に切れたり折れたりした枝が枯れてしまう事は、桜にとってメリットになり得るのか、という事も疑問に感じています。
 ご回答、宜しくお願いします。
葉羽栄兎 さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「桜伐る馬鹿 梅伐らぬ馬鹿」は小学館の“故事、俗諺 ことわざ大辞典(昭和57年)”では「木の剪定法を教えることば。枝葉を切って手入れするのにも、桜については切ると衰弱してかえって悪く、梅についてはより良い花実を育てるには、無駄な枝葉を切ることを怠ってはならない。」とあり、植木職人たちの長い経験から導き出された剪定の際の注意事項を端的にまとめた一般の人たちへの戒めのことばです。
確固とした科学的証拠に基づいたことばではないようです。説明の一つに「桜の枝は切り口から菌が入って枯れてしまうが、梅の枝を切っても切り口が腐る事はあまりない」がありますが、その根拠は明らかでありせん。新しい切り口が、病原菌感染の確率を上げることは桜でも梅でも同じです。幹の成分に抗菌性物質の違いがあるかもしれませんが、宿主と病原菌との関係(感染の成立)には両者の遺伝的組み合わせも関係します。これらの観点から桜と梅について比較調査した結果も見つかりませんでした。桜盆栽の管理では枝を切り(剪定)ますが、剪定する時期を守ること、切り口を防菌保護する手段を講じて問題を解決していますので剪定自体が桜では悪く、梅では問題ない、ということではなさそうです。ただし、剪定つまり個体の一部を失うことは個体としては全体の光合成能力の低下、失った部分にある栄養分の損失を意味しますので個体としては樹勢が低下することは否めませんしこれに差がある可能性は否定できません。成長生理学的に見た大きな違いの1つに梅の成長力は桜に比較すれば旺盛な点が挙げられています。剪定という荒療治に耐える力は梅の方が大きいようで
す。現象としては自然の状態に任せておけば梅の成長のほうが桜よりも早く活発で、枝を切ったときに梅では新しいシュートの成長が盛んにおこるが桜ではおこりにくい点などがあります。これらのことは、個体としての光合成能力、光合成産物の転流、蓄積、植物ホルモン状態の制御、植物ホルモンへの応答性、代謝活性の制御の違い(つまり、樹勢という用語の中身)などが関連することが考えられますが詳細は明らかでありません。
桜は花の鑑賞、梅は花の鑑賞と良質の果実を得ることも栽培管理上大切な点です。桜ではたくさんの花がつくように、梅では良質の果実が出来るように配慮する必要があります。桜の花芽は、開花前年の7~8月に形成されますから剪定は花芽が判断できる、落葉が終わった11月頃が最適とされています。梅でも花鑑賞だけを目的とすれば同じようなものです。しかし、果実を得る目的の場合には状況は違います。梅は成長が早く、新しい枝に花芽を形成するので前年の花が終わったとき(4~5月)新枝の成長を促す目的で、果実収穫後(7~8月)新枝に花芽形成を促すためと、冬に樹形を整えるために、と時期を変えて複数回剪定を行うのが良いとされています。
まとめると、自然状態の桜は特別に剪定しなくても花をたくさん咲かせるが、実をとる梅では何度か剪定をしないと良質の果実が得られない、と言うことになります。
最後の「自然に切れたり折れたりした枝が枯れてしまう事は、桜にとってメリットになり得るのか」とのご質問、母樹から切り離された枝は栄養供給が絶たれますから枯れるのは当然です。母樹にとっては樹勢が衰える可能性が増すし、感染の恐れも増加しますのでデメリットはあってもメリットはないでしょう。



今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-02-13
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