一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の培養変異について

質問者:   その他   西野将司
登録番号0469   登録日:2006-01-18
初めて質問させていただきます。

植物の組織培養に興味があり、これまでも多くの植物を培養してきました。
その中で、植物の培養中に起こる変異に注目しています。
培養変異(こういう言葉でよいのでしょうか?)は、均一な苗を大量増殖するときには困る現象ですが、新品種育成という面では利用価値があるといわれています。
個人的には、培養変異が培養中のどこで起こるのか(たとえば、培地に添加した植物ホルモンの濃度や、継代培養の回数、外植体の部位、品種間)がわかれば、育種への利用価値が高まると考えています。

そこで質問です。

実験材料として利用しやすく、培養変異が比較的起こりやすい植物はないでしょうか?
順化した後、花の色や草丈などで培養変異の程度を調べられないかなぁと考えているのですが・・・。

漠然とした質問ですが、よろしくお願いいたします。
西野 将司 様

植物組織培養に関する質問(登録番号0469)に回答いたします。富山県立大学工学部生物工学研究センターの荻田 信二郎先生にお願いして、以下のような詳しい解説をしていただきました。
なお、今後いろいろ研究をなさるのでしたら、植物の組織培養に関する書籍は沢山出版されていますので、それらを参考にされることもお勧めいたします。


「回答」
植物の組織培養に興味をお持ちということで、今回の質問は培養中に起こる変異についてですね。

まず、組織培養過程で生じる突然変異を、ソマクローナルバリエーション(somaclonal variation)といいます。
植物組織(体細胞)が脱分化し、カルスなどを経由し、再分化の過程で起こります。培養細胞中の染色体数が倍加あるいは低減したり、染色体が欠失、重複、転座などを起こすことなどにより変異し、その形質が後代にも遺伝します。ご存知の通り、新品種作出の一手法として利用されていますが、培養中に変異が生じる機構については十分な解明はされておりません。

実験材料として利用しやすく、かつソマクローナルバリエーションが生じやすい植物はないか?ということですが、一概にはいえません。同じ科や属の植物種であっても、品種間差や生育環境の影響があるからです。また、培養条件や継代培養回数によって、例えば培養細胞中の染色体倍加などは起こりますが、このような細胞は、正常な植物体へ再分化しにくいこともありますので注意が必要です。

研究する植物体を決めるためのポイントとして、動く遺伝子ともよばれるトランスポゾン(transposon)の存在を考慮に入れることをお勧めします。トランスポゾンは、染色体上および染色体外遺伝子(プラスミド)間を転位することのできる遺伝子単位で、葉に生じる斑(ふ)がよい例です。斑入りの葉を持つ植物、中でも斑入り葉の出現が1個体中でも異なるものは、変異を生じる可能性が高いものの指標になると考えることができます。

組織培養が比較的しやすく、再生植物体も得ることができ、短期間に開花も観察できるということであれば、変異を利用して品種作出の例が多い、キクやペチュニアがまずは適当かと思います。また、興味にもよりますがモデル植物であるシロイヌナズナも変異体の解析が進んでおり、研究材料として用いることが できるでしょう。順化したあとに花色や草丈で違いがみれないか?ということについては、形態的な特徴を指標に変異体を選抜するということですので、まずはその考えでよいと思います。

荻田 信二郎(富山県立大学工学部生物工学研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
 勝見 允行
回答日:2006-01-27
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