一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ゲノム編集による種なしさくらんぼの開発について

質問者:   会社員   さくらんぼ
登録番号4739   登録日:2020-05-25
いつも楽しく拝見しています。
これからが旬のサクランボについて質問です。
登録番号3446で「サクランボのようないわゆる核果の種無し果実はできない」とありますが、ゲノム解読がされている品種については、ゲノム編集によって内果皮をつくるゲノムを機能させなくすることで、内果皮を作らないようにさせることができれば、種なしのサクランボができるようになるのでしょうか。
現在のゲノム編集の限界含め、ご教示いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
さくらんぼ さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
お答えするのが大変難しいご質問です。ご質問にもあるように堅い殻は内果皮で、真の種子はその中にあります。サクランボを「種なし」にするためには内果皮の殻化を抑制しながら中果皮の発達を促す(抑制しない)と同時に次世代胚の発達を抑制する条件を満足させる必要があるはずです。胚の発達を抑制することは何らかの方法で受精しないようにすることで可能です。また、受精なしで子房を膨大させる基本的技術も確立しています。モモにおいて植物ホルモン処理で子房の肥大成長を促進させる試みには成功しているようですが、内果皮の殻化の抑制には成功していません。
内果皮の殻化は二次細胞壁にリグニンが多量に沈積したものと理解されています。単純に考えリグニン合成、蓄積を抑制すれば殻をもった種子は出来なくなることになります。リグニンの生合成経路や生合成に関わる酵素の遺伝子などは判っています。しかし、二次壁形成、リグニン生合成、沈着は植物体の多くの細胞においても同じようにおこっているので、全般的に二次壁形成抑制、リグニン合成抑制の技術を利用することは出来ません。内果皮特異的に発現するセルロース合成、ヘミセルロース合成、リグニン合成を抑制する必要があります。オウトウのゲノム配列は2017年に決定されていますが、ゲノム編集を適用するためには、どの遺伝子(構造遺伝子ばかりでなく調節的配列を含め)を不活化すれば内果皮特異的に二次壁の殻化(リグニン蓄積?)を抑制できるかを決定しなければなりません。この決定は容易ではありません。現在はこのゲノム情報を新たな有用形質の育種に応用することに向けられているようです。


今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-06-01
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