一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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アジサイの花(ガク)の色の変化について

質問者:   一般   リハビリ屋
登録番号4748   登録日:2020-06-03
はじめまして。
アジサイの花(ガク)の色の変化について質問させて頂きます。
この学会の質問でも幾つか同じ質問をされていらっしゃる方もいますがご容赦ください。

アジサイの花の色の変わるのは、土壌のpHの違い。とか、青い花が赤っぽくなるのはアルミニウムイオンの影響という話は聞きますし、論文にもそう書かれています。
更に青い色素においては補助成分により複雑な化学変化がみられるということも論文に書かれています。これらのことは、興味深いことですし、とても意義のある研究結果だと思います。ただ、読み落としがあるかもしれませんが、これらの実験は試験管の中で行われているようです。

我が家の庭は狭いながらも数株、赤や青のアジサイが咲いています。そして夏が近づくと色の変化が感じ取れずに枯れていきます。この現象は近くの公園でも同様のように生じます。


pHの変化といいますが、どの程度の違いを差と定義されているのでしょうか。
私はかつて、微生物(bacteria)を扱っていましたが、微生物の場合、閉鎖系で行う場合、少なくとも数字の差が0.5を超えたものをpHの差と表現していました。
また、わたくしが学生の時には、東京周辺の土壌は弱酸性でだいたい6.7から6.8でほぼ同一と教わりました。

重箱の端をつつく質問で申し訳ありませんが、土に実際に埋めたり、閉鎖系の知見がありましたらお教え願います。よろしくお願いいたします。



リハビリ屋さん

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。
回答は、アントシアニンをはじめとするポリフェノール類の研究が専門の吉田久美博士(名古屋大学大学人間環境学部、教授)にお願いしました。

【吉田先生の回答】
ご質問いただき、ありがとうございます。
まず、pH変化についてですが、二種類のpHがあります。
一つは土壌のpHです。測定方法にもよりますが、一般的にpH5.5以下を酸性土壌といい、植物の成長が妨げられます。アジサイは、酸性土壌に強い植物で、そのような土壌環境で溶け出すアルミニウムイオンを吸収してガク片まで運びアントシアニンと錯体形成して青色を発色します。6以上の中性土壌では、アルミニウムイオンはほとんど水に溶けませんので、吸収されません。

もうひとつは、ガク片の中の細胞のpHです。厳密には色素は液胞に溶解しておりますので、液胞pHということになります。細胞内微小電極法という実験方法で、液胞pHを直接測定した結果、青色品種は平均4.1、赤色品種は3.3でした。もちろん、品種間差、個体差もあり、おおよそ、3から4.5くらいまでの値を取ります。時間とともに色が変わる要因としては、液胞pHの変化および助色素の量的変化が最も考えられる要因です。

アントシアニンとアルミニウムイオンが全く同じだけ含まれていても、助色素の量が変化すると発色は変わります。

いずれにも閾値があります。逆に言えば、その閾値を超えるほどの変化がなければ、ガク片の色は変わらないままに枯れていきます。

土壌pHについては、よほど何らかの土壌処理をしない限り、アジサイが咲いてから枯れるまでに大層な変化はないと思われますので、ほとんどのガク片の色変化の要因は液胞pHと助色素量ではないかと考えております。これらは、実際の植物の分析結果とin vitro(試験管内)での実験結果とを組み合わせて考察したものです。

[付記]
上記回答のように、「リハビリ屋」さんが気にしているpHには、2か所のpHを指すので、区別が必要です。第1は土壌のpHで、土壌中の無機質や有機質の種類と濃度によって決まります。学生時代に「東京周辺の土壌は弱酸性でだいたい6.7から6.8でほぼ同一と」教わったとありますが、これは極めて大雑把な目安であって、現実にはこれより高い場合も、低い場合もあり、日本のように高温多湿な気候帯では、アルカリ分が流出して酸性側に傾いた土壌が多いと言われています。第2は液胞中のpHです。細胞質のpHは、普通弱アルカリ性(pH7.0-7.2程度と言われる)です。液胞は一重の液胞膜によって囲まれ細胞小器官で、周りを細胞質によって取り囲まれていますが、内部のpHは酸性です。これは、無機イオン、有機酸、アントシアンその他の化合物が液胞膜を通して選択的に輸送・蓄積された結果です。

なお、質問者は「アジサイの花の色の研究は試験管の中で行われたものではないか」と述べていますが、登録番号4561で紹介した研究は吉田博士らのグループが比較的最近行ったもので、凍結した萼片について、「飛行時間型質量分析装置」を用いて、アントシアニン(詳しくはデルフィニジングルコシド)、Al3+、助色素としてネオクロロゲン酸の3者が非共有結合的に結合して錯体になることにより青色が生じるという結果が得られています。




吉田 久美(名古屋大学大学人間環境学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2020-06-11
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