一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物が海から陸上に生きる場を広げる時、生きる為に必要なミネラルを蓄積する機構は新たに備わったのでしょうか?

質問者:   一般   プリンセスアン
登録番号4815   登録日:2020-08-01
初めて質問させて頂きます。
小学1年生の子供を持つ母です。
子供と一緒に、動物の進化についての本を読んでいたところ、全ての生命は海で生まれ、陸で生活できるようにさまざまな工夫がなされていることを学びました。その中の一つ、海から離れても海の成分の一つカルシウムを骨に蓄えておき、足りなくなったら骨から融解し利用する。また豊富にカルシウムがあるときは、骨に蓄えておく。という動物の中に秘められた素晴らしい機構について改めて触れ、感動しました。そこでふと、同じ様に海から陸上に生きる場を広げていった植物のことが気になりました。
海にいる間にはいつでも周りにたくさんあったミネラル等を、植物内でも余分にある時は貯めておき、足りなくなったらそこからだして使うような器官は、存在するのでしょうか?動物でいうところの骨のように。また現在、海で生きる植物には必要がないけれど、かつて海からうまれた生命の子孫である陸上でいきる植物が、生命維持に必要なミネラルを海から離れても得る為に兼ね備えた何かしらの方法があるのでしょうか?
あるいは、植物は、地面とつながっているため、地面から得るだけで生命を維持するだけのミネラルを常に維持できるのでしょうか?

海の中には豊富にあるけれど、地面、空気中には少なくなるものを、植物達はどのように補いながら陸へと進出していったのでしょう?

ご指導いただけないでしょうか。よろしくお願い致します。

プリンセスアン さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
生物の進化と器官の分化、それに栄養の問題が含まれる内容のご質問です。ご質問にあるように現在地球上に生存する多種多様の生物は海中で創られた有機化合物が集まって出来た原始的生命体が物理的、化学的環境の変化に適応しながら、およそ40億年の期間を経て「進化」してきたものです。「進化」で表現される現象は、生命体を形成する細胞の数、形、働き方の変化をもともなったものです。
陸上の動物、植物ともに共通祖先から進化してきたものですが、主に栄養の取り方の大きな違いが、その後の生活様式を変えたことになります。動物は栄養を他の生物に依存する(他の生物が合成した有機物を栄養とする)ように進化し、植物は光合成によって無機物質(二酸化炭素と水)から有機物を作り出すように進化したものです。光合成に直接必要な無機物質(二酸化炭素)以外の無機物質(ミネラル)と水を土壌から吸収するために根という器官を分化、進化させたものです。根は地上部が必要とするミネラルを必要なだけ吸収するように働いています。
したがって、土壌に必要なミネラルが不足すれば、その土壌では正常に生育できません。根で吸収される必要な元素は最低13種類ありますが、大量に必要な元素、中程度必要な元素、微量で十分な元素など必要量はミネラルによって異なります。しかし、どれ1つでも欠乏すればその欠乏症として正常に生育しません。植物栽培において肥料を与えるのは植物が大量に必要とする元素(リン、窒素、カリウム)が土壌中に不足してくるからです。これらの元素を体内に蓄積しておく仕組みはありませんが、リンや窒素を含む有機物が必要に応じて(生存のために)これらの元素を融通し合うことはあります。


今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-08-11