一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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冬の休眠と夏の休眠について

質問者:   会社員   えび
登録番号4818   登録日:2020-08-02
休眠をする植物には寒い時期と暑い時期に休眠するものと2つに分けられると思いますが、それぞれどういった意味合いがあって休眠するのでしょうか?

名前は出てきませんが多肉植物系の植物が暑い時期に休眠したかと思います。

寒い時期に休眠するものは春に芽を出すための花芽分化をすすめるため等なんとなく想像できます。

暑い時期に休眠するものは原産地でも同じ時期に休眠するのでしょうか。受粉や生育には寒い時期よりメリットが多くありそうに思えます。

よろしくお願いします。
えび様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問への回答は、植物における「休眠」という現象について一般的に解説することでご理解いただけると思います。休眠やそれに関係する事柄については本コーナーでも過去に多数の質問がありますので、「休眠」という項目で検索していただき、読んでいただくのも勿論よろしいかと思います。
まず「休眠」を大まかに定義すると、「分裂組織を含む植物の構造部分(例えば茎頂、腋芽、胚など)の可視的成長が一時的に抑制されること」と言えます。休眠をもたらす要因は大別して、1)当該構造部分に内在する要因、2)当該構造部分以外の離れたところにある部分(器官など)からの影響、3)一時的に成長に不都合な環境条件が挙げられます。
植物学の教科書などでは休眠はふつう主に種子休眠と芽(樹や多年・越年草本)の休眠が扱われます。ご質問の内容から判断すると、芽の休眠を念頭に置いておられるようですね。さて、そもそもなぜ植物の生活環(ライフ・サイクル)の中に休眠などという過程が生じたのでしょうか。植物にとって種の繁殖の手段で一般的なのは種子生産です。種子は発芽すると植物体はそこから移動するわけにはいきませんので、もし、急激で大きな環境のストレスに曝されると、芽生えは死ぬことになります。冬季では凍結が起きると、脱水が起きて植物組織に致命的な水分バランスの撹乱が起きます。また、植物組織内で生じた結氷は細胞を破壊します。植物体が長く氷で覆われると外気とのガス交換もできなくなくなります。植物体自体に大きな損傷がなくても、土壌の凍結・解氷が繰り返されるといわゆる土壌隆起が起きて、土壌で守られていた植物体(根も)がもろに低温に晒されることになります。このような事態を避けるために、発芽・生育環境が整う春の季節まで休眠するわけです。夏の終わりから秋にかけて作られる樹木の新しい芽(腋芽)もすぐ成長しないで休眠します。冬芽と呼ばれるこれらの芽は芽鱗という葉が変わってできたうろこ状の鎧のようなもので覆われています。これよって低温障害から守られています。花芽の場合も同じです。冬季休眠は温帯、亜寒帯の植物が生活環の中の一過程で、低温の時期をやり過ごす手段といえるでしょう。夏季休眠は、冬季休眠とは成長に不都合な環境ストレスを避ける手段ということでは同じですが、種子休眠や芽の休眠のようなタイプは見られません。夏季休眠は半乾燥(semi-arid)の地中海性気候、つまり、長期の乾燥した暑い夏と温暖な冬がある地域に育つ、主として草本多年生植物について報告されています。これらの植物が示す休眠の現象は、茎頂の細胞分裂による成長低下あるいは停止、地上部の茎葉のほとんどあるいは全部の老化、球茎/塊茎とか球根が早々と形成される、最も若い葉の基部に見られる脱水症状などがあります。しかし、これらの休眠状態にある植物も根の吸水機能が働いていないと死滅します。地上部の葉が全部老化するのは、葉からの蒸散による水分の消失を防いでいると考えられます。夏季休眠は暑い夏の乾燥気候が4ヶ月も続くような地域に育つ植物が、その期間たくましく生き残るための手段であると言えましょう。これでお分かりになったと思いますが、休眠という過程は植物が、環境条件の最も悪い季節を生き延びるための適応的反応です。それぞれの種が生まれた環境の中で進化してきたものです。
休眠誘導・解除のメカニズムは冬季休眠については、各種の植物ホルモンの関与(本コーナーで「休眠」の項目で調べてください)など多くの研究がありますが、夏季休眠については多くがわかっていません。
現在地球温暖化が問題視されていますが、植物の休眠も少なからず影響を受けることになるでしょう。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-08-12
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