一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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光合成におけるミトコンドリアの役割

質問者:   高校生   タコス
登録番号4835   登録日:2020-08-15
質問させていただきます。
ミトコンドリアは主に呼吸の場であり,光合成とは切り離された反応だと思っていたのですが,葉緑体で行われる炭酸同化でもミトコンドリアは重要な働きをしている,と以前先生が授業でさらっとおっしゃっていました.そのときは聞き流してしまったのですが後になってミトコンドリアが同化に関与する機構が気になりました.
カルビンベンソン回路で使われるATPはチラコイド膜で起こる水素イオンの勾配によって作られ,それでカルビンベンソン回路に使うATPをすべて賄っているのだと思っていたのですが,ミトコンドリアで生成されるATPもカルビンベンソン回路に寄与しているのでしょうか?それとも,他に何かミトコンドリアは光合成に寄与しているのでしょうか?
タコス 様

本コーナーのご利用ありがとうございます。この質問には東京薬科大学の野口先生から下記の回答文をいただきましたので、参考になさってください。

【野口先生からの回答】
少し長くなりますが、基本的なことを説明し、回答とさせていただきます。

ミトコンドリアの呼吸系は、大きくはTCA回路(クエン酸回路・クレブス回路)と呼吸鎖電子伝達系に分けられます。TCA回路では、ピルビン酸からつくられたアセチルCoAから、(1) NADHやFADH2が生成されたり、(2) TCA回路の中間代謝産物が他の合成経路に供給されたりします。(1)の過程でつくられたNADHやFADH2は、(3)呼吸鎖電子伝達系で酸化され、水素イオンの勾配がつくられ、ATPが生成されます。(4) また、呼吸鎖電子伝達系では、TCA回路以外で作られたNADHも酸化されて、ATP生成に利用されています。(2)にはいろいろな反応がありますが、例えば、中間代謝産物のクエン酸はミトコンドリアの外に運ばれて、2-オキソグルタル酸になり、窒素同化反応で使われます。

光が当たっている葉の葉緑体では、光合成電子伝達系でNADPHやATPが生成され、それらが使われてカルビン回路でCO2が固定され、トリオースリン酸がつくられます。カルビン回路でつくられたトリオースリン酸は、葉緑体内でデンプン合成につかわれたり、葉緑体の外に運ばれて、細胞質でショ糖(スクロース)の合成に使われます。

ミトコンドリアでつくられたATPはカルビン回路では使われていないようですが、細胞質のショ糖合成に使われていると考えられています。また、光合成電子伝達系とカルビン回路のバランスがくずれて、光合成電子伝達系でつくられたNADPHがカルビン回路で消費できないときがあります。そのようなときには、葉緑体内のNADPHが葉緑体の外に輸送され、ミトコンドリアの呼吸鎖電子伝達系で酸化されていると考えられています(上の(4)に該当します)。強すぎる光が葉にあたったり、気孔が閉鎖して葉のなかのCO2濃度が低くなると、光合成電子伝達系とカルビン回路のバランスがくずれるようです。また、光が当たっている葉では、窒素同化反応も行われる場合がありますが、窒素同化反応で使われる2-オキソグルタル酸の供給源はTCA回路になります(上の(2)に該当します)。

まとめると、「光が当たっている葉では、葉緑体での光合成反応とミトコンドリアでの呼吸反応は互いに相互作用している」と考えられています。他に不明な点がございましたら、また、このコーナーをお訪ねください。
野口 航(東京薬科大学生命科学部応用生命科学科応用生態学研究室)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2020-08-21
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