一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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アリノトウグサの雄性先熟について

質問者:   大学院生   ワレモコウ
登録番号4870   登録日:2020-09-07
アリノトウグサは風媒花であり、雄性先熟であるとの記述を見ました。

質問1
穂状に花をつけるため、上部は雄性期の花、下部は雌性期の花になります。風媒花であるにもかかわらず上部に雄花、下部に雌花をつけると自家受粉する可能性が高くなると思うのですが、雄性先熟であるメリットはあるのでしょうか。

質問2
雄性期から雌性期に移り変わるに当たって雄しべを切り落とすのですが、何か理由はあるのでしょうか。また、他の植物でこのような現象は知られていますでしょうか。

長くなりましたが、宜しくお願い致します。
ワレモコウ様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問に対する回答は東北大学大学院生命科学研究科植物分子育種分野教授で植物生殖生理学に詳しい渡辺正夫先生にお願いしました。なお、本コーナーに登録されている過去の質問/回答にも関連のテーマが記載されているものがありますので、読んでください。(登録番号0833, 0752, 3606など)

【渡辺先生の回答】
東北大の渡辺と言います。植物の花というか、受粉の仕組みを研究しています。まず、最初に雄しべと雌しべが熟する時期がずれるのでしょうか。ということから、話を始めたいと思います。被子植物の多くが両性花です。つまり、1つの花の中に、雄しべと雌しべが同居しています。これでは自家受粉する確率が上がり、自殖弱勢、つまり、劣悪な遺伝子が蓄積して、最悪、その種がなくなるようなことになりかねないわけです。そこで、植物は様々な仕組みを構築して、自家受粉を避けるようにしています。その仕組みの1つが「雌雄異熟」になります。雌雄異熟には、雄性先熟、雌性先熟の両方があります。雄しべ、雌しべの熟する時期をずらすということです。この仕組みは農作物の栽培の時には、工夫が必要なものが出てきます。トウモロコシは雄性先熟ですので、1個体だけの栽培では、雌しべに花粉が届きません。ですから、10個体程度以上を植えることが必要と言われています。夏に畑を見ると、トウモロコシがそれくらいの個体数で栽培されているのを見ることができると思います。

さて、本題に戻しますが、「アリノトウグサ」に限らず、花は茎の下から開花をはじめ、茎の先端の開花があとになりますね。そうしたら、言われるように、雄性先熟であれば、1つの花序(茎、枝)で、下の方が雌しべが熟している時期、先端の方は雄しべの葯(花粉)が熟している時期になり、同じ個体の先端にある花粉が下にある雌しべに風で運ばれる可能性はありますね。これだと、自家受粉の可能性が高くなりますね。ただ、風媒花として、多くの方々を苦しめている「スギ花粉」が飛散する様子は見たことがあるのではないでしょうか。風に乗って、スギの樹木よりもその周辺に落果しているのを見たいことないでしょうか。今(11月半ば)の時期だと、マツの花粉が飛んで、アスファルトに黄色いものが見えることがあります。でも、周りを見ても、離れたところにマツの樹木があります。また、この「アリノトウグサ」を見たことがないのですが、花の大きさは2mmくらいだと、webなどに書かれてあります。花が小さいと言うことは花粉も小さいことが考えられます。小さければ、花粉はより軽くなります。つまり、重力の影響を受けず、真下に落ちるのではなく、周辺に飛散する可能性が高くなります。このような自家受粉の回避をしているのではないでしょうか。もっと厳密に制御するには、1つの枝の先端で花粉が熟する時期に、枝の下にある雌しべは未熟の場合、自分の果粉がついても、受精に至らないと思います。このあたりは、調べてみてはいかがでしょうか。日本にもある植物のようです。

それから、「アリノトウグサ」は花粉を飛散させたあと、葯がなくなっていますね。これは、他の花の花粉を受け取るために、その邪魔になるものを切り落としているのだと思います。花を見ていると、ここまで極端ではないにせよ、花粉を飛散した葯は収縮するというか、小さくなり、雌しべに花粉が着くのを邪魔しないように、なっているのではないでしょうか。両性花で葯がなくなるのは、厳密ではないかも知れないですが、イネなどがそうだと思います。これから冬になるので、植物の花が減少しますが、身の回りの樹木の花、あるいは、畑にある農作物の花を観察してみると、意外と葯は飛散すると、小さくなったり、落ちてしまうと言うのを見つけられると思います。

直接的な答えでないかも知れないですが、これをヒントに「アリノトウグサ」だけでなく、いろいろな花の様子を観察すると、不思議を見つけたり、その不思議の原因が分かると思います。
渡辺 正夫(東北大学大学院生命科学研究科植物分子育種分野)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2020-11-13
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