一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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日光への慣れについて

質問者:   一般   げる
登録番号4885   登録日:2020-09-23
はじめまして。趣味で植物を育てている者です。
葉焼けさせてしまう度に疑問に思うことがありこちらで質問させていただくことにしました。
「葉焼けを起こさないように少しずつ明るい場所に慣れさせていく。」というのは、何となくイメージはできるのですが、具体的に植物の中で何がどうなって日光に耐えられるようになるのでしょうか?
薄暗い場所では葉緑体が少なくなり、外に出した時に強い光を使い切れない→少しずつ明るい所に置くことで葉緑体が増え、強い光を処理し切れる
というような感じでしょうか?
きっと葉緑体が関係してるんだろうと予想はしてみたのですが、でも増えたり減ったりするものなのだろうかとも思っています。
植物の光に対する慣れについて教えていただきたいです。
げる 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。少し長く、専門的になりますが、背景から説明させていただきます。

1)「葉焼け」が起こる仕組み:
クロロフィルなどの光合成色素により吸収される光エネルギーは、アンテナとして働く色素系によって集められ、光化学反応中心において酸化力と還元力(酸化還元のエネルギー)に変換されて、最終的には光合成産物である有機化合物を形作る化学結合のエネルギーとして利用されます。ところで、色素による光の吸収は、温度などの環境条件や植物の生育ステージなどの生理条件とはほとんど無関係に、受動的に引き起こされる過程です。このため、エネルギーの供給(色素による光エネルギーの吸収)がエネルギーの需要(有機化合物の合成によるエネルギー消費)を上回る場合には、過剰な還元力や酸化力などの余分なエネルギーの処理が問題になります。エネルギー供給が過剰になった場合、典型的には、光化学系において反応性に富んだ活性酸素の分子種が作られ、これらの分子の働きによりクロロフィルの分解(退色)が起こり、葉緑体が破壊され、細胞が死に至ります。以上の経緯により葉が褐変した状態が「葉焼け」と呼ばれています。

2)植物に備わっている「葉焼け」防止の仕組み:
「葉焼け」につながりかねない上述のようなエネルギー需給のバランスの渦れは、自然条件下では日常的に起こっております。このため、植物の反応系には、そのような状況に対処するための保護・調節の仕組みが多重に備わっています。光合成色素が吸収した光エネルギーをアンテナ色素系で熱エネルギーとして散逸させる仕組み(例えば、キサントフィルサイクルと呼ばれる代謝系)や酵素系の働きで活性酸素の分子を除去する仕組みなどがその例として挙げられます。反応の速さの観点からも、光合成系の機能状況を感知して瞬時に起こるタンパク質の構造変化のようなものから、関係する酵素タンパク質の合成に基づく応答まで、いろいろな時間特性の仕組みが備わっていると言えます。

3)植物が強い光条件に順応する(光順化)の仕組み:
植物がより強い光条件に順化する(慣れる)仕方としては、原理的には、二酸化炭素の同化反応に代表されるエネルギー利用系の活性を強める場合と、余剰なエネルギーを散逸・消去させる保護機能を強める場合が考えられます。言うまでもなく、植物の生長が進むには同化反応の過程がバランスよく進行する必要があります。

一般に、強い光条件への順化にはさまざまな形質の変化が伴います。強い光への順化に伴って葉の構造が陰葉型から陽葉型に変化する場合があり、この変化に伴って細胞に含まれる葉緑体の数が変化することがあるようです。しかし、どの場合にも葉緑体の数が増えることで光への耐性が増強されていると単純には言えないように思います。条件によって陰葉型から陽葉型に転換する場合があるなど多様で、植物の種類によって光順化の能力や仕組みには大きな違いがあるようです。

小さな経験ですが、我が家では陰生植物のクンシランを室内栽培しており(冬季)、毎年春になると日光に慣れさせるために鉢ごと屋外の木陰に移すことを繰り返していますが、少し欲張りすぎて明るいところに置いて「葉焼け」に見舞われことがしばしばあります。ほぼ育ちきった葉の場合とは事情が違うようで、新しく育ってくる葉は徐々に光に強くなって行くように観ております。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-10-14
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