一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ヒガンバナは種をつけないのに、なぜ花を咲かせ蜜を出すのか

質問者:   一般   masa-borracho
登録番号4914   登録日:2020-11-13
ヒガンバナは種をつけませんが花を咲かせ、そこにはチョウが集まってきます。2つの解釈ができそうです。(1) ヒガンバナは花から蜜を出している。(2) ヒガンバナは蜜を出していないが、チョウは赤い色に惹かれてやって来る。
そこで、小花の基部をカットして舐めてみたところ甘味を感じました。どうも蜜を出しているようです。すると、ヒガンバナは無駄なエネルギーを使っていることにならないでしょうか。日本のヒガンバナの原産地である中国には2倍体で種子が実るものがあるようです。日本のヒガンバナは自身が不捻性であることに気づいていないのかと感じます。将来的には蜜を出さなくなったり、最終的には花が咲かなくなってしまう可能性もあるのでしょうか。
masa-borracho様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
ヒガンバナは3倍体植物ですので種子を作りません。繁殖は、球根(鱗茎)による増殖と、鱗片葉の高い再生力によります。有性生殖を行わないにも関わらず、赤色のきれいな花を咲かせ、蜜を出してカラスアゲハなどの蝶の仲間を誘引します。ヒガンバナの祖先(3倍体)は、核型をもとにした系統関係の解析から2倍体のコヒガンバナの祖先から染色体突然変異で生まれたと推定されています。現存のヒガンバナが赤色の花をつけ、蜜を分泌するという性質は、現存のコヒガンバナが継承していると推定されるコヒガンバナの祖先の性質を遺伝していることによると考えられます。ご指摘のように、有性生殖が行われないのに昆虫を誘引するような花をつけるのは、無駄なエネルギーを使っていることになりますが、その性質が変わるためには遺伝的性質が変わる必要があります。
3倍体であっても体細胞の突然変異はおきます。突然変異のうちもっとも頻度が高いのは遺伝子突然変異ですが、3倍体の場合は一つの遺伝子に突然変異が起きても野生型の対立遺伝子が2つ残っていますので、表現型として現れないことが多いと思います。また、減数分裂がうまくいきませんので、変異遺伝子が子孫に分離してホモ接合状態になることもありません。このようなことを考えると、コヒガンバナの祖先から受け継いだ遺伝的性質(ヒガンバナの遺伝的性質)が変化するのは非常に起こりにくいと思われます。(植物Q&A登録番号3374が参考になると思います。)
日本に分布するヒガンバナは、中国でコヒガンバナ(の祖先)から生じた3倍体のヒガンバナが救荒植物として有史以前に導入され、それが人手を介して全国に分布を広げたと考えられています。将来的と言われている時間がどの程度の時間を指しておられるのかわかりませんが、少なくとも縄文時代前から現在に至る時間経過の中で、エネルギーの無駄を省いて、花がない、蜜を作らない、白色になったなどのヒガンバナが、通常のヒガンバナの群落に置き換わった例は知られていません。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-11-22
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