一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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多肉植物の葉挿しの仕組み

質問者:   大学生   榊丸
登録番号4918   登録日:2020-11-20
趣味で多肉植物を育てています。多肉植物の増殖方法に葉挿しがあるのですが、どのようにして1枚の葉から新しい芽や根を発達させているのかすごく気になっています。趣味家の間では、葉が取れたことにより頂芽からのオーキシン供給が止まり、葉に付着した側芽が伸長する。また、根は枝挿しと同じ原理で根原基の形成により発根しているという考え方が広まっています。この考え方はあっているのでしょうか?
榊丸さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
一般に趣味の園芸として好まれる多肉植物には大別するとサボテンの仲間(サボテン科、Cactaceae)とセダム、カランコエやエケベリアなどの仲間(ベンケイソウ科、Crassulaceae)がありますが、葉刺しについてのご質問ですのでベンケイソウ科が対象になると推察します。
ほとんどの植物では「葉には根がない」(登録番号0734参照)のですがベンケイソウ科の多肉植物では切り取った葉から発根するように見える場合があります。殖やし方の1つの方
法として葉刺しと言われるゆえんです。
多肉植物の特徴は、葉に十分の水と栄養を蓄積することです。と言うよりそのような性質を持つ植物を多肉植物と呼ぶだけです。多くのベンケイソウ科の植物の葉が多肉になる性質を持っていることも面白いことです。増殖に関するこれまでの研究にはa)数枚以上の葉が付いた切片(枝刺しに相当します)、b)一枚の葉を根元に短い茎をつけて切り出したもの(これも基本的には枝刺しに相当します)、c)葉身の基部を茎からから切り出したもの(葉身のみ)、を材料として植物ホルモンの影響を調べたものがあります。c)切片での発根(その後不定芽の形成もおこる)することはかなり特異な現象と思われます。オーキシンの極性移動阻害剤を用いた研究、外からオーキシン、サイトカイニンを投与した研究から、多肉葉の内生オーキシンが発根及び不定芽の形成に関与していることが明らかにされています。また、c)切片を、切り口を下にして直立させた場合、葉の向軸側を下にして横に置いた場合の発根数、根の形状から葉身内のオーキシンの極性移動が重要であることも推定されています。
コモチマンネングサ、カランコエなどに見られる葉縁や葉身向軸側に不定芽が発生することからベンケイソウ科の葉には節間メリステム(intercalary meristem)が多くあることも推定されています。
さらに、Crassula ovata (カネノナルキ、ナリキンソウなどといわれている)のc)材料での発根、不定芽発生の状況は細胞学的に詳しくしらべられています。葉を母体から切り離して静置すれば切り口に根、ついで芽が形成されます。切り出した葉を中央部分で切断すると基部側の切片(切り口は基部側と先端側にある)と先端側の切片(切り口は基部側のみ)に分かれますが、発根は基部側切片、先端側切片の基部側切り口にだけにおき、先端側の切り口にはおこりません。葉身を3つ以上に切断した各切片でも同じことが起こります。すなわち、発根、芽形成には葉の極性が影響します。切断という傷害は必須の条件で、傷害応答の1つである切り口直下におこる傷害誘導細胞分裂で癒傷組織が出来ることが必要です。ベンケイソウ科では癒傷組織の下部の師要素及び伴細胞、柔細胞が細胞分裂を開始して出来たカルス内にメリステム化した領域が形成されてまず根原基が形成され、次いで二次的な分裂センターが出来て不定芽が形成することが観察されています。当然内生のオーキシンが働いていることは推定出来ます。葉身切片をごく小さくすると発根、芽形成はおきませんが、オーキシンとサイトカイニンを加えた培地においた場合には根、芽がおきることでも植物ホルモンが働いていることは明らかです。
ご質問に直接お答えすると「葉が取れたことにより頂芽からのオーキシン供給が止まり、葉に付着した側芽が伸長する」という解釈は頂芽優勢の仕組みから考えられないことで、むしろ葉が切断された傷害に対する傷害応答として葉身内オーキシンの極性移動で分布が変化する結果と考えられるものです。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-12-02
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