一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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トウモロコシのキセニアについて

質問者:   会社員   Wii
登録番号4932   登録日:2020-12-01
トマトやカボチャなどの果菜類は、子房やその周辺の組織が肥大して果実となるため、花粉の遺伝情報の影響を受けず、母体のみの性質を有するため、F1種は、均質な収穫物を得ることができますが、トウモロコシは、ご存じのとおりキセニア現象が起きて、花粉の遺伝情報の影響を受けます。
市販されているトウモロコシの種子もほとんどがF1種ですが、F1種であれば、交配によって生じる種子は、均質ではなく多数の種類が混ざり合うことから、トウモロコシの実は、さまざまな味を持つ可能性があります。
にもかかわらず、実際に収穫される実(未熟な種子)は、均質な性質を持っています。
これではまるで固定種の性質を持っているように感じます。
同じ種子を食べる豆類は、自家受粉する確率が極めて高いため、キセニアが起きず、収穫される豆は均質な性質を持つことは理解できます。
トウモロコシにおけるF1種とは、他の作物におけるF1種とは異なるものなのでしょうか。
Wii さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
キセニアはどのような現象かについては登録番号4653を参考になさって下さい。その上で、F1とはなにか、種子と果実の違い、と言う2つの点を理解する必要があります。
市販の「F1種」とはF1世代を生ずる「種子」を意味しています。親世代で好ましい形質(仮にA形質とします)をもつ品種と、この形質をもたないけれどもほかの形質、例えば成長が早い、病気に耐性があるなどの形質(仮にB形質とします)をもつ品種があれば、この2つの品種を交配して得られた種子には形質Aと形質Bを支配する遺伝子が含まれます。これがF1種子です。このF1種子を蒔いて出るF1世代(栄養世代)は形質AとBの両方が発現しますから「求める好ましい形質Aを示し、かつ成長が早く、病気に耐性をもつ栄養個体」となります。トマト、カボチャのように栄養個体(果実の種子以外の部分)の一部を食用とする蔬菜類では栽培者にとっては有り難いものです。しかし、このF1世代に出来る種子はF2世代の受精胚をもつものですから、蒔いても問題としている形質は分離して均一の種子集団とはなりません。一方、トウモロコシやイネは主に種子の胚乳を食用とする作物です。種子の胚乳ではキセニア現象が起こりますから花粉にある優性形質が直接F1種子に現れます。種皮の色(アントシアニン色素遺伝子)、でん粉のモチ性(Waxy遺伝子)が知られています。トウモロコシは花の集合体である穂軸を対象としますので、個々の種子の胚乳の色を変えることが出来ます。有色性は通常優勢遺伝子ですので、白色、黄色の種皮をもつ個体の周辺に有色形質をもつ個体を配置すると、白色、黄色個体の花が有色個体の花粉を受粉すれば有色となります。周辺に異なった色素をもつ複数品種を配置すると1本の穂軸内に複数の色の種子が不規則に出来、観賞用などに利用されています(どの色の花粉が穂軸のどの花につくかには規則性がありませんから)。通常茹でたり焼いたりして利用する日本のトウモロコシはスィートコーン(甘味種、甘みのある品種を選抜したもの、ウルチ性)が主なものとなっています。市販のF1種子は、味については両親の味で十分満足しているので、別の、栽培、品質上問題となる形質(優勢遺伝子群)を導入している場合が多く、味については対象としていないので変化がないことになります。
また、豆類は胚乳ではなく子葉を食用としています。子葉は胚乳を消費したあとに成長するF2世代に当たりますからキセニア現象はおきません。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-12-04
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