一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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台木から発生する代謝物について

質問者:   会社員   T
登録番号4933   登録日:2020-12-02
接木することによってなぜ開花が早くなるのか疑問に思ったので質問させて頂きます。

登録番号4464の質問で、接ぎ木した植物は穂木と台木の間で互いの維管束をつなぎ、水や栄養にくわえて代謝物など多様な分子が共有されるので、そのうちの一部の成分や分子が穂木の形質に影響しているということは理解しました。
その上で、フロリゲンなどの花成ホルモンが台木部分から生成され、師管を通して穂木の茎頂分裂組織に輸送され、早期開花すると自分自身では思っていました。
しかしながら、フロリゲンの生成場所をインターネットで調べてみると、葉で生成され、茎頂分裂組織に輸送されると書いてありました。

私は接木をしたことがないのですが、台木は根と根元の茎だけのイメージだったので、台木に葉が無くフロリゲンを生成できないのでは?と感じました。

それとも、台木部分からはフロリゲン以外の開花に関する物質が生成され、輸送されるのでしょうか。
もしくは、若い穂木にはフロリゲンを葉で生成するのを抑制する物質があり、その物質の働きを抑える物質が台木部分で生成され輸送されることで、本来抑制されていた穂木の葉でのフロリゲン生成が解除され、フロリゲンが生成されるようになったのか?とも感じました。

調べてもわからなかったのですが、実際はどういう物質が台木部分で生成・運搬され、どういう現象が起こっているのでしょうか。

拙い文章で伝わらづらいとは思いますが、答えて頂けると幸いです。
よろしくお願いします。
T 様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
多細胞生物では一般に、幼若期、成熟期、生殖期と発育過程が進行します。動物の場合は個体全体で進行しますが、植物の場合は地上部をつくる茎頂分裂組織と地下部をつくる根端分裂組織で進行します。その過程は、生殖器官である花芽形成を誘導する環境シグナルなどに反応しない幼若栄養成長相、特定の環境シグナルや発生シグナルに反応する準備ができた成熟栄幼若栄養成長相から成熟栄養成長相への移行は草本植物で短く、日の単位で進行しますが、木本植物では年単位になり、長いものでは30年くらいかかるものもあります。また、齢そのものよりは十分な大きさに達することが重要です。個体サイズを計測する機構も想定されています(登録番号4303, 4317)。したがって、接ぎ穂のサイズを促進する要因である、炭水化物(ショ糖など)、無機物質、ジベレリン(植物によって異同があります)などは、成熟栄養成長相に移行するのを促進します。また、水ストレスや低温などは移行を遅らせます。
花成ホルモンが作られていても、茎頂分裂組織が成熟栄養成長相に入っていなければ花成はおこりません。また、台木から成熟栄養成長相への移行を促進する物質が提供されるなら、花成ホルモンに対する反応性も早まり、花成が早まると思われます。しかし、接ぎ木は、植物の組み合わせ、育てる場所や気候によっても影響が異なりますので、台木からの具体的な物質の同定は難しい問題です。

上記の回答は質問内容の意を汲んで、台木に枝葉が付いていない場合のものです。接ぎ木には高接ぎといって、成熟した樹木(植物体)に芽や枝を接ぐ方法もあります。また、台木から枝葉が伸びだす場合もあります。これらの場合は環境条件によっては花成ホルモンが作られ接ぎ穂に送られます。この場合も、接ぎ穂が成熟栄養成長相に入っていなければ単純に開花が促進されるということはありません(登録番号4303, 4317)。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2020-12-10
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