一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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樹木の遺伝子

質問者:   高校生   りょうすけ
登録番号5019   登録日:2021-03-15
こんにちは
私のすむ場所は 北海道の豪雪地帯で、毎年、2m前後の積雪は当たり前で 雪の多い年は、植えた樹木が雪の重さで枝が折れたりするので、そこで一つ気になったことがあり、同じ種類の木でも、北海道と九州では、遺伝子が違うと思うのですが、例えば北海道にも自生するキハダの場合雪の降らない九州に自生していたキハダの木を豪雪地帯に移植したら、元々北海道の豪雪地帯に自生していたキハダと比べ、遺伝子が違ったりして、雪圧に弱かったりするのですか?
りょうすけ 様

この質問コーナー(植物Q&A)をご利用いただきありがとうございます。

例えばヒト(Homo sapiens)においても、一卵性双生児などの場合(すべてとは言えないようですが)を除けば、遺伝子を含めたDNAの構造は個体ごとに違っており、時としてその違いが個性(形質)の違いとなって発現されているのが実態かと思います。植物についても事情は同じです。天然の樹木などは長期的な気候変動に対応してその分布領域を変遷させながら生き残って来ているので、同一種においても遺伝的な違いが生じていることが多いといわれています。特定の植物の形質を支配している遺伝子についてここで議論することはできませんが、一般的な理解のために下記の二つの文献を読まれることをお勧めします(共に、ネット上で見ることができます)。

(1)は、環境省の研究グループの調査が基になっているもので、核DNA・葉緑体DNA・ミトコンドリアDNAの調査に基づき、多くの身近な広葉樹について、「遺伝子撹乱」の防御を目的に、地域を越えた種苗の移動を制限するためのガイドラインです(なお、スギなどの針葉樹については既に「林業種苗法」と称する法律で移動範囲の制限がかけられているようです)。このガイドライン(提言書)に付録されているDNA変異樹の分布図が興味深いと思います。

(2)は、質問文にあるキハダ(Phellodendron amurense)の遺伝的な多型について解析した研究論文です。英文で書かれており、高校生には取りつきにくいかも知れませんが、その気になられたらAbstract(要約)やIntroduction(序論)だけでも読むと背景の理解に役立つと思います。

-参考文献-

(1)独立行政法人森林総合研究所発行(平成23年3月1日):広葉樹の種苗の移動に関する遺伝的ガイドライン

(2)Hongsheng Yang et al. (2016) Genetic diversity and population structure of the endangered medicinal plant Phellodendron amurense in China revealed by SSR markers. Biochemical Systematics and Ecology, Vol. 66, Pages 286-292.
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-03-27
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