一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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シダ植物の胞子のうの並び方の規則性

質問者:   教員   かげ
登録番号5074   登録日:2021-05-16
こんにちは。中学校でタマシダを実際に生徒に採らせて観察した際に、「胞子のうはなぜ規則的に並んでいるの?」と質問され、具体的な回答を持ち合わせていなかった私は「遺伝子にもともとそのようにプログラムされているからだよ」と答えてしまいました。

実際のところ、シダ植物の胞子のうはなぜ規則的に配置されているのでしょうか?
進化や陸上に進出する上での背景や、次世代を残す上での具体的な利点などがあれば、それも交えて教えてください。
よろしくお願いします。
かげ様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。生徒さんがこのような疑問を持ってくれるということは素晴らしいことです。ちゃんと真剣に観察している証拠ですね。
さて、生徒さんや一般の方からの質問ですが、「なぜ?」という問いは生物に関しては簡単に答えられない場合もあります。今回は植物発生進化学がご専門の基礎生物学研究所副所長長谷部光泰教授に回答をお願いいたしました。その回答の中に紹介されていますが、「なぜ」の4つの問う意味に沿って説明を頂きました。できたら長谷川氏の本も読んでみてください。

植物(生物)の構造には規則的配置されて形成されるものが多いです。pattern formation がどのようにして決まるかは勿論遺伝情報に基づきます。それぞれの植物(種)が長い進化の過程で生育環境に適するよう作り上げた構造の遺伝情報と言って良いでしょう。シダ植物の胞子嚢の配列(タマシダとは違うものもありますが)もそうですが、よく知られた例は、茎への葉のつき方には一定の規則性があることです。フィボナッチの法則(登録番号1802参照)に従って葉は形成されます。それぞれの葉が最大に陽光を受けられるような配置だと言われています。

【長谷部先生の回答】
「なぜ」は長谷川眞理子先生が「生物をめぐる4つの「なぜ」」(集英社新書)でわかりやすく説明してくださっているので、ぜひご参考にされてください。要約すると、どんな仕組みか(至近要因)、どんな機能か(究極要因)、発生成長過程でどう獲得されるか(発達要因)、どう進化したか(系統進化要因)です。
ご質問の胞子嚢はたぶん胞子嚢群のことだと思いますので、以下、胞子嚢群として回答します。
どんな仕組みか:胞子嚢群はどこにできているか観察されたことはありますか?たいがい、葉脈の末端、あるいは途中にできていると思います。葉脈の出来方はまだ議論がありますが、植物ホルモンのオーキシンが関与していると考えられています。葉脈が葉の全体に広がる仕組みが胞子嚢群を葉全体に広げる仕組みかと思います。
どんな機能か:一箇所に作る胞子嚢群の数には限界がありますので、葉全体に散らばっていることが、よりたくさんの胞子嚢を作ることにつながると思います。
発生成長過程でどう獲得されるか(発達要因):よくみかけるベニシダなどの薄嚢シダ類では、葉脈の末端付近の細胞が分裂して、組織がもりあがりドーム状になり、ドームの表面の表皮細胞1つが1つの胞子嚢へと発生します。
どう進化したか:シダ植物の祖先は、テローム植物と呼ばれる二叉分枝する枝だけの植物でした。胞子嚢が枝の末端にできていました。シダ植物が進化する過程で葉が進化しましたが、葉がどのようにできたか、枝の先にあった胞子嚢がどのように葉で作られるように進化したのかはまだわかっていません。葉の進化については、ちょっと専門的で難しいですが、「陸上植物の形態と進化」(裳華房)に詳しい説明をしてあります。
長谷部 光泰(基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2021-06-02
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