一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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トマトの色と糖度の関係

質問者:   一般   nagiママ
登録番号5180   登録日:2021-08-04
今、中学生の娘と一緒にトマト色の変化についての理科実験研究をしています。1.そのままの生育条件(プランター)、2.緑色のトマトにアルミホイルを巻く(プランター)、3.緑色のトマトを取ってひなたに置いておく(室内・室外)、4.緑色のトマトを取ってアルミホイルに巻いてひなたに置いておく(室内・室外)。
これらの条件変化下での色の変化を観察しています。その時、緑色のトマトを取ってきて、赤く変化したトマトが、なぜ甘くなるのか?と素朴な疑問が娘から出ました。
糖度には日照時間や水分、土壌の栄養など様々な条件が必要だと思うのですが、日照時間しか条件がないトマトが甘くなる仕組みがよくわかりません。
糖度の仕組みや条件・トマトの色と糖度の関係など、詳しく教えて頂きたいです。
よろしくお願い致します。
nagiママ さん

みんなのひろば 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

トマト果実の成熟(ripening、追熟とも)については膨大な研究があり、トマトの品種、収穫時期、環境条件などによって結果が微妙に異なり、ご質問にある記載だけで判断して的確なお答えをすることはかなり困難なものです。そこで、トマト果実成熟について一般的なことを基準として推定したことでお答えとします。
まず、果実の成長過程を追ってみます。いくつかの時期に分けていますが、この分け方、呼び方はアメリカ農務省(USDA)の分け方に従いました。受精後、子房が肥大成長をはじめ果実が成立(着果)し、中玉クラスでは1cmくらいの緑色の未熟果実となります。この時期までの成長は主に果皮(特に中果皮)細胞の分裂による細胞数の増加によります。ここで、細胞分裂は止まりますが細胞の肥大成長によって果実が大きくなります。ある大きさ(収穫時の大きさとほぼ同じ)に達すると果実の膨大成長は止まります。この時期までは母体から光合成産物(主にショ糖)が盛んに転流され果実全体の成長に必要な原料を供給しています。果実は内部も外部も緑色で、一見未熟果に思えますが、緑熟期(Mature Green、MG)としています(まだ種子は完成―完熟―していません)。この時期には母体からの光合成産物の転流も止まります。緑色は葉緑体によるもので、ここでも光合成をしていることがわかります。しかし、緑色果実の光合成産物が種子完成以外の何に利用されるかについては、はっきりとは判っていません。このMGの時期の果実は、母体につけておくままにしても、収穫して15~20℃の室内に放置しても、ほぼ同じように成熟過程を辿ります。2、3日すると着色(薄い桃色か黄色、色は品種によって違います)が始まります。これをブレーカー期(Breaker、BR、破色に相当?)と呼び、着色の始まりの時期であるとともに果実内の生化学的反応の調節が大きく変化する時期です。ブレーカー期の果実を半分に切ると中身は外側よりも色づいているのが判ります。これは、トマトの成熟が果実の中心付近から始まるからです。着色はご存じのとおりカロテノイド(主にリコペン(リコピン)やルテイン)の合成と蓄積によるものですが、これは葉緑体(クロロプラスト、chloroplast)が色素体(クロモプラスト、chromoplast)へと変換することによります。果実の着色がさらに広がり、果実全体がほぼ均一に着色する時期(Turning T期、まだ十分の赤さではない)を経て全体が濃い色調となり果実に柔らかさが加わります(Red Ripe, RR期)。この時までに酸、糖、香り成分などが加わり、食用にする最適の時期となります。これを過ぎると過熟期(Overripe)となり組織が崩れ始めて来ます。市場に出回っているトマトは殆どMGかT期に収穫して成熟させたものです。
MG期以降の変化には光はあまり影響がありません。母体からの光合成産物の転流が殆どなくなり変化は果実内独自のものです。むしろ光が強すぎると着色しにくくなり、表面にひび割れなどが出来ます。
ご質問にある試みの結果が分かりませんが、用いた「緑色のトマト」は緑熟期(MG期)であれば、母体に着けたままでも収穫した後でも、またアルミホイルを巻いても巻かなくても同じように成熟して着色したと思います。アルミホイルをきつく巻いて外気との気体の流れが抑えられると果実自身から発生したエチレンが滞留して成熟が早まることは予想されます。もっとも影響するのは温度です。成熟を着色度(リコペンの生成度)で見ると15~20℃が最適で、それより低温や高温では遅く進行し、35℃では殆ど着色しません。
「糖度の仕組みや条件・トマトの色と糖度の関係」についてですが、トマトは母体から転流されたショ糖をMG期以後の代謝変化に使い、一部のショ糖(およびその分解物であるブドウ糖と果糖)が甘みの元となります。しかし、ショ糖がある濃度蓄積すると、その後のショ糖の蓄積を抑制する遺伝的仕組みがあり、ふつうの品種では甘みに限界があります。最近、育種により糖濃度の高い品種がフルーツトマトなどとして市販されてはいるようです。ショ糖によるショ糖蓄積の遺伝的抑制、またこの抑制をやわらげる仕組みは分子生物学的に判っています。また、果実の着色度から非破壊的に成熟度を測定(推定)する測定器も市販されていますが、原理は必ずしもショ糖の蓄積量とは関係していません。「糖度」と表現されている数値も「糖の濃度」と比例する数値ではありません。
なおこのご質問に関連する質問がこのコーナーにあります。登録番号0992, 1149, 1395, 1572, 3484などをご参照下さい。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-08-27
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