一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ワカメなど藻類の組織

質問者:   教員   とも
登録番号5186   登録日:2021-08-05
植物の組織について授業で扱うにあたり、水中の植物に興味を持った生徒がいて、私も上手く調べられず、質問させていただきました。
植物の組織は、表皮系、維管束系、基本組織系に分けられると言われますが、ワカメなど藻類はどうなのでしょうか?顕微鏡写真を見ると、表面も葉緑体のある細胞がひしめき合っているように見えました。組織系は明確に分かれていないのでしょうか?

また、同じ水中にいるオオカナダモの組織系はどうでしょう?種子植物ではありますが、葉は二層の細胞層になっているとのことで、表皮系や気孔はないと考えていいのでしょうか?
とも様

植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。

 藻類の中には、珪藻、緑藻、紅藻、褐藻などいろいろな異なった性質をもつ植物が含まれます。大きさでも単細胞や糸状の小さいものから、数十メートルになる巨大なものもあります。これらの生物の組織形態も多様です。ここでは、質問内容で具体的に例示されているワカメが属する褐藻類の中でも、大型の植物の組織形態について取り上げることにします。
 ワカメなど大型褐藻類は、維管束植物の葉のように薄く平らな部分(葉状体とかブレードと呼ばれています)、茎のようにブレードを支える部分〈茎状体あるいはスタイプ)、根のように岩などに固着する働きをする付着器(ホールドファースト)からできております。維管束植物の葉、茎、根に対応するように見えますが、機能的には異なります。大型褐藻類は海水中で生活しますので、水分、無機栄養素、光合成に必要な二酸化炭素を体の表面から吸収します。ホールドファストは根に似ていますが無機塩や水を吸収する働きはありません。岩などに固着することで、植物体をつなぎ留める構造として適応しています。ホールドファストに水や無機塩を吸収する働きがありませんから、スタイプには水や無機塩を輸送する維管束系は存在しません。また、水分代謝や光合成に必要な二酸化炭素などのガス交換に働く気孔はブレードに存在しません。
 それでは大型褐藻類には維管束植物のような明確な組織系が存在しないかというとそういうことではありません。ブレードの構造を薄い平らな袋状としますと、一番外側では、表皮とその内側数層の細胞層は細胞がコンパクトにつまっている組織で、光合成が行われます。陸上植物で乾燥から内部組織を守るのに機能するクチクラ層をもつ表皮がありますが、乾燥の心配のない藻類では陸上植物にあるような表皮はありません。気孔もありません。その替わりに表面を粘液で覆っている種もあります。「表面も葉緑体のある細胞がひしめきあっている」という、ともさんの観察はその通りです。表皮層の内側は皮層です。細胞が緩やかな結合をしている粘液を含む組織です。最内層には細長い細胞からなり、多くの粘液を含む髄組織があります。スタイプの組織を横断面で見てみますと最外層の表皮とその内側数層、皮層、そして最も内側に髄質となっています。髄質は空隙の多い組織で細長い細胞からなっています。その中にはちょうど維管束植物の師管のように、細長い細胞の末端同士が多数の孔を持った仕切りで結合した構造が見られるものもあります。師管のように光合成産物の輸送に働いていると思われます。

 オオカナダモなどの種子植物の水中植物については今までに多くの質問が寄せられています。その回答を読んで頂ければと思いますが、簡単に紹介いたします。多くは海藻の場合と同じです。
 種子植物の水中植物は、一度陸に上がった植物が水中の環境に適応して水中生活に戻ったものと考えられています。したがって、内部組織を乾燥から防御するクチクラ層が発達し、気孔が存在する表皮組織は失われ、水流に柔軟に対応できる柔らかい組織構造をもつようになったと考えられます。水、無機栄養素、二酸化炭素などは直接水中から取り入れられますので、気孔の必要性はなくなります。表皮の定義の問題になると思いますが、一番外側の細胞層ということですと、オオカナダモの表裏の細胞層が表皮ということになりますが、どちらにしても、陸上植物で一般的な、クチクラ層が発達し、気孔の存在する表皮はないということになります。
 詳しくは、植物Q&Aの登録番号1100, 2233, 2283, 4432 をご覧ください。
庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-09-07
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