一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ナガイモのシュウ酸カルシウム

質問者:   一般   Ken
登録番号5223   登録日:2021-09-09
「皮を剥いたナガイモを手で直接触れるとチクチクするのは針状のシュウ酸カルシウムが原因で、酢につけるとシュウ酸カルシウムが溶けるので防げる。」という記述をよく見かけます。しかしシュウ酸カルシウムは酢には溶けないので矛盾しています。俗説だと思うのですが、どのように広まったのでしょうか。また、酢でチクチクが防げる本当の理由は何でしょうか。教えてください。
Kenさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
シュウ酸カルシウム結晶はナガイモに限らずウリ科、ユリ科のいくつかの属を除けが殆どの植物に多かれ少なかれ存在します。主に限られた細胞の液胞内に結晶水量の違いによって異なった形状を示す結晶あるいはその集合体としてあります。植物種によっては細胞壁に存在することも知られています。関連する情報としてQ&Aの登録番号0501をご参照下さい。
ヤマノイモ科、サトイモ科、アカザ科、タデ科(イタドリはスカンポとすら言われています)などに特に多く含まれるので話題になりますが、その植物内存在は一般的なことで、ある総説によれば、乾燥重量の80%近くを占めることは稀ではないと述べられています。Caは植物生育にとって不可欠の栄養元素で根から他の有機酸とともに盛んに吸収され、ときには必要以上に細胞に到達した場合に細胞質内濃度を調整するためにシュウ酸カルシウムとして液胞内に待避させると考えられています。その他特にシュウ酸カルシウム結晶は動物からの食害を防ぐとの考えもあります。植物学的にはどのような細胞内に結晶があり、どのようにして形成されるか、またその結晶形態、生理的あるいは環境変化による代謝と関連した結晶の消長(結晶は植物細胞内では安定して存在するのではなく、消失したり、再形成されたりします)、植物における機能などについては多くの知見はあります。
細かい針状結晶が皮膚に刺さるのでチクチク感や痒み感を感ずると言われています。走査型電子顕微鏡観察では針状結晶は槍の穂先のような形状で、結晶表面には釣り針の返しのような小さな突起構造があること、また長軸に沿って2本の溝があることが分かりました。その結果、針状結晶が皮膚に刺さると容易に抜けにくく物理的刺激を与えること、溝に沿って何らかの物質が皮膚に注入されることが予想されます。実際、結晶表面には蛋白質が付着しており、その中にはタンパク質分解酵素があるのではないかと論議されています。チクチク感は物理的刺激により、痒みや炎症性の反応はこれらの化学的刺激によることが推定されています。酢などに漬けると痒みがなくなるのは化学的刺激に対する生体反応が抑制されたのではないかと予想されます。しかし、これらの推定はまだ、はっきりと検証、実証されていないようですので今後の研究課題です。食品衛生、皮膚科(小児科も関係する場合があるようです)などの領域の専門家の見解も参考にすることが必要です。
シュウ酸カルシウムは化学的には水に難溶性で、溶解度は0.67mg/100g水(25℃)、95℃では1.4mg/100g水と記載されています。シュウ酸の定量法にもカルシウム塩の生成、その秤量が挙げられているくらいです。塩酸、硝酸には可溶とされていますがご質問にあるように食用酢(約4.2%酢酸)には難溶とされています。したがって、酢で洗ったらチクチク感、痒みが治るとしても、結晶が溶解したためとは考えられません。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-10-01
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