一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ダイアレル分析について

質問者:   大学生   蓮
登録番号5230   登録日:2021-09-16
遺伝解析について詳しく知りたいと思い、鵜飼康雄氏の「量的形質の遺伝解析」という本を読みました。その中のダイアレル分析の章にある条件の一つに「親は純系であること」とあったのですが、ダイアレル分析を用いた論文を調べると少数ですが他植性の植物に関するものがあり不思議に思いました。ダイアレル分析は他植性の植物に用いても不都合は生じないのでしょうか?
またダイアレル解析について詳しく書かれている本や論文、サイトなどもあれば教えて頂きたいです。
蓮樣

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
ご質問の内容は本学会の守備範囲を超えるものですので、実際に農作物についてダイアレル分析を使われている農業・食品産業技術総合研究機構 田口和憲先生に以下のような回答をいただきました。

【田口先生の回答】
ご照会された「量的形質の遺伝解析」には、Hayman(1954)の方法に沿った詳しい解説が邦文でなされており、膨大な資料をもとにまとめられた名著です。ぜひ大切に保管され今後の研究にご活用ください。
さて、ご指摘のとおり、ダイアレル分析を他殖性植物に適用した報告例は少なからずあります。このうち、例えばトウモロコシやテンサイのように本来の生殖様式が他殖でも、近交弱勢の程度が小さく、強制的に自家受精が可能な場合は、自殖の近交系統を作出することにより「親は純系であること」の条件をクリアできます。また、自家受精での採種が難しい放任受粉集団や栄養繁殖植物の場合でも、ダイアレル分析の親に利用する集団/個体における遺伝子型が集積されて、固定していれば分析は可能です。
その際、系列の分散(Vr)と親と系列の共分散(Wr)の関係が傾き1の直線回帰となる相加・優性モデルに適合するかどうか検証します。しかし、上記の関係を示した(Vr, Wr)図において、ヘテロ接合度が高い非純系親は限界放物線側にプロットされるため、分析によって推定される遺伝情報の信頼性が損なわれることが懸念されます。非純系親によって生じる分析の問題は、Hayward(1979)により詳しく考察されていますのでご参考にしてください。
Hayman(1954)のモデルでは、対象形質の親の遺伝子型が固定していることが分析の前提条件になります。しかし、多くの動・植物種へ応用する際、この条件をクリアすることが難しいのも事実です。このため、親のヘテロ性が高い他殖の集団間のダイアレルクロスから遺伝効果を推定するモデルには、GardnerとEberhart(1966)の方法などがあります。
ご要望のあったダイアレル分析について詳しく書かれた情報などについては、まずは原著性が高い論文を吟味されるのがよろしいかと思いますが、農業技術に連載された以下の総説がたいへん参考になると思いますので、ご紹介します。

中山林三郎(1985)ダイアレルクロスとデータ解析.(1)―(5)農業技術40:352-356, 398-402, 448-451, 493-496, 538-541.
田口 和憲(農業・食品産業技術総合研究機構)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2021-10-05
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