一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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こんにゃく芋のシュウ酸カルシウムの無毒化について

質問者:   その他   tohu
登録番号5265   登録日:2021-11-02
 登録番号2893の「こんにゃく芋を生で食べられないえぐみの正体は何でしょうか」の回答で「シュウ酸カルシウム結晶が薄い酸で可溶性になり加熱段階で失われてえぐみが消失したと考えられます」とありますがこれは間違いではないでしょうか。
 こんにゃく芋はすり潰して長く煮ても食べられたものではなく、練ったものを灰汁などを混ぜてアルカリ性にすることで固まり食べられるようになります。
 サトイモのように煮ても食べられないからこそ、固める方法の発見により食べた先人の知恵に驚嘆の目が注がれているのだと思います。
 当方の実験では、食べられない練った芋にも食べられる固まったこんにゃくにも針状結晶が顕微鏡で観察され、両者のカルシュウム量にも差がありませんでした。
 このことから、シュウ酸カルシウムの無毒化は、毒物の溶出ではなく毒の要因である針状結晶の針を固まったこんにゃくゲルが包み込んで無毒化したのではと推察しました。
 この解釈についてご意見をいただければ有難いです。
tohuさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

登録番号0501の解説をご覧ください。植物組織内のシュウ酸カルシウム結晶は希塩酸、希硫酸、希硝酸で溶解することが判っています。実験化学便覧(共立出版)によればシュウ酸カルシウムの水100gに対する溶解度は0.58mg(20℃)、1.4mg(95℃)となっており、沸騰温度近くでは有意に溶解するとみられます。関連するものに登録番号5223もご参考になさって下さい。

ご質問は、「こんにゃく芋はすり潰して長く煮ても食べられたものではない」また「当方の実験では、食べられない練った芋にも食べられる固まったこんにゃくにも針状結晶が顕微鏡で観察され、両者のカルシュウム量にも差がなかった」ことからシュウ酸カルシウム結晶は「食べられない煮た芋にも製品こんにゃくにもある、製品こんにゃくが食べられるのは「こんにゃくゲルがシュウ酸カルシウム結晶を包み込んで無毒化したのではとの推察」はどうか、とのことのようです。私共はこんにゃく製造、こんにゃくの食品としての分析などを調査研究しているものではありませんので、上記のご推察の是非を判断する資料を持ち合わせておりません。

しかし、シュウ酸カルシウム結晶の溶解度、こんにゃく製造の過程を考慮すると製品には人に不快感を与えるほどのシュウ酸カルシウムは残っていないと思われます。群馬県農業技術センター研究報告 第11号 (2014):1~8 (高畑浩之著)によるとこんにゃく内のシュウ酸含量はおよそ20mg/100gと測定され、シュウ酸カルシウム換算では28mg/100gとなります。こんにゃく塊茎内のシュウ酸カルシウムの分布は均一でなく、塊茎の上部に多く、下部は少なく、中心部よりも周辺部に多いと言う状況はありますが、報告の測定値を単純平均する(いささか乱暴ではありますが)と78mg/100g(組織)程度となります。

したがって、およそ75%のシュウ酸カルシウムが製造過程で除かれたとみられます。私どもはこんにゃくを製造したことはありませんが、記載された方法の一例では煮沸軟化した塊茎組織100gを約300mlの温水とともに摩砕し、糊状になったものに水酸化カルシウムなどの凝固剤を少量の水とともに加えゲル状の塊として、これをかなり大量の熱水で30~40分処理しています。つまり、塊茎組織摩砕の過程で細胞は破壊され(シュウ酸カルシウム結晶も破壊されるかも知れません)、大量の温熱水や水に浸漬している間に溶解除去されたと塩推定することが出来ます。塊茎は水分96%ほどですから、細胞成分はごく僅かと言うことになります。

繰り返しになるかも知れませんが、こんにゃく(製品)と塊茎内に含まれるシュウ酸カルシウム結晶の形状、存在状態、存在含量などを詳細に調査比較したデータを蓄積する必要を感じます。それまでは、飽くまでも限られた情報にもとづく推察にとどまらざるを得ません。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2021-11-19
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