一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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同一植物における果柄と葉柄の維管束痕は違う形なのか?

質問者:   一般   おはぎ
登録番号5338   登録日:2022-02-21
 ハンカチノキの維管束痕を以前撮った写真で観察しています。葉柄は馬蹄形で、断面の中央では無く葉柄の上面側にありました。一方、果柄の場合は丸形で、中央にありました。正直なところ、同一の植物における果柄と葉柄の維管束痕は同形だと思っていたので大変意外でした。
 同形では無かったのは、果柄の方の調べた個所が本当の果柄の断面では無くて、果柄を外して果実に着生していた部分の面だったからなのかもしれず、本当の所を知りたいです。
 花柄と葉柄の維管束痕は違っていることが普通なのでしょうか??
おはぎ様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。植物の形態の細かな違いに目を向けられるのは素晴らしい観察力ですね。
回答が遅くなってしまいましたが、詳しく分り易い解説を植物形態学がご専門の日本女子大学教授今市涼子先生に書いていただきましたのでお読み下さい。

【今市先生の回答】
維管束植物(シダ植物、裸子植物、被子植物)の体は3つの器官、茎、葉、根から構成されています。お問合せの果柄と葉柄にみられる維管束の配置の違いは、果柄と葉柄が別々の器官であることによるものです。質問者の方は、鋭い観察眼をお持ちです。
果柄は果実の柄であり、もともとは花を支えていた茎(花柄)です。これに対して、葉柄は、扁平な葉身の柄として、葉の基部が軸状になったものです。つまり果柄と葉柄は外見からは、軸状で同じものにみえるかもしれませんが、実際は異なる器官で、果柄は茎の一部、葉柄は葉の一部と考えられます。したがいまして、果柄と葉柄の維管束の配置の違いは、茎と葉という器官の違いを反映している事になります。
茎の維管束は、横断面でみると、環状(リング状)に配列しています。そして、茎から葉が出るとき、茎の環状の維管束の一部が切り取られるように、そのまま葉へ入っていきます。このため、葉柄の維管束は、横断面で馬蹄形あるいはU字型となるのが一般的です。この馬蹄形の維管束は分枝を繰り返し、扁平な葉身を走る葉脈となります。これに対して、果柄は器官学的に茎と考えられますので、その維管束は環状、すなわち質問者のおっしゃる丸形になっています。一方で、ご質問にある、果柄と葉柄の維管束の位置の違い、すなわち、横断面の中央にあるか、上面側に寄っているかは、茎と葉の器官学的な違いを示すものではないと考えられます。
ご質問の「本当の果柄の断面ではなく、果実についていた部分だったからか?」につきまして、ハンカチノキの花と果柄について、少し説明させていただきます。本種は木本で、長い枝の側方に短い枝が多数でており、春、この短枝に数枚の葉と花をつけます。花と言いましたが、実際は、1個の花ではなく、沢山の雄花と1個の雌花が球状に集まったもの(花序といいます)で、これを大型で白色の2枚の葉が、花弁のように覆っています。花が終わると、花序の中の1個の雌花が球形の果実を作り、果柄が伸びてぶら下がるようになります。私自身は、果柄が伸びる過程ならびに、その維管束を実際に観察した事はありませんが、ハンカチノキの外見上の「果柄」は、白色の葉より下部の茎、白色の葉より上部の球形の花序の柄、そして、花序内の雌花自身の柄、の3つが合わさったものだと解釈できるかもしれません。しかし、この「果柄」はどの部分も、茎として環状の維管束をもつものと考えられます。
今市 涼子(日本女子大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2022-05-08
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