一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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木生シダなどのシダ植物について

質問者:   一般   蒼
登録番号5362   登録日:2022-04-19
私は趣味で熱帯植物を育てており、中でもシダ植物が好きです。そこで気になったことがあります。
一部のシダ植物や木生シダと呼ばれるものは、一本の太い幹が伸び、葉は先端に密集しています。枝もなく、幹の先端の少し下方には葉がついていた痕跡があり、あえて葉を落としているようです。また、表面から根がでて幹の表面を覆うようですが、どのような仕組みでこのように育つのですか?
自分なりに調べ、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニンなど植物ホルモンの働きは少し理解できました。
しかし、木生シダでどのように作用し、あの姿になるのか分かりません。
ご回答のほどよろしくお願いします。
蒼さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「シダ植物」という用語を用いておられますがその範囲は広く、クリスマスツリーを飾るときに、よく根元に敷く枝分かれしたモールのような紐状の植物ヒカゲノカズラ、節のある管状のスギナ、トクサ、そして複雑な羽状複葉をもつワラビ、ゼンマイ、木生シダの代表ヘゴまでを含みます。ところが、羽状複葉を持つ(実際は胞子嚢の構造で大別するようですが)ものを「シダ類」(true fern)としています。ご質問はこのシダ類についてと理解しました。シダ類に共通することとして根、茎、葉の区別はありますが、根、茎は根茎(茎から細い根がでている)となって地表近くを這うか地下にあり、葉は根茎から出ています。長い葉柄を持ち3回あるいはそれ以上の
複葉を形成しています。ですから、森林などで普通にみられるシダ類は葉だけを見ていることになります。
さて、木生シダの「あの姿」です。茎が直立して「木」のように見えますが、シダ類は木本ではなく草本です。一番の特徴として茎は肥大成長(形成層による二次成長、太くなる成長)をしません。茎の維管束にはいろいろの並び方(断面で見たとき)がありますが、樹木の幹のように環状につながって形成層を作らないからです。二次木部の代わりに硬膜組織が形成されて機械的強さを与えています。もう一つの特徴は、茎から不定根が沢山発生することです。若い木生シダでは短い茎の先端部分に葉がつき、不定根が茎を取り巻くように発生します。成長するにしたがって古い葉は枯死し落ちますから、葉は常に茎の先端部分に輪状についた形になります。成長とともに茎頂の分裂組織は大きくなる傾向(シダ類の茎頂分裂組織は被子植物とは少し異なります)があります。そのため木生シダの「茎」は下の方(地表に近い方)が細く、上の方が太くなりますが、不定根が密生するように形成され、茎に沿って下方へ成長しますので下に行くほど根が重なり合って茎を包むことになり、地表近くでは不定根の重なりが厚くなって、外見では太く見えることになります。因みに茎に発生する不定根には空気中の水分を吸収する働きがあり、熱帯、亜熱帯の高温、多湿環境で生き抜くのに適したものです。木生シダの茎は一般には分枝しないので(例外はありますが)木生シダの「あの姿」になります。
最後にこれら木生シダの形態形成に植物ホルモンがどのような関わり合いがあるかについては残念ながら殆ど調べられていません。いくつかのシダ類にはオーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、アブシシン酸があることは確認されています。ジベレリンによく似たアンセリディオーゲンと言う物質は造精器の分化誘導を促進し、ジベレリンも類似の働きがあることは分かっています。しかし、これら被子植物で機能している植物ホルモンの存在は限られた種のシダ類で確認されているもので、生理的にどのような機能を持っているかについて十分な知見が蓄積されていません。今後これらに関する研究が展開することを期待するところです。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-04-22
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