一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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抽水植物が植えられている環境では水中の二酸化炭素濃度が上昇するのか?

質問者:   会社員   光沢
登録番号5406   登録日:2022-07-08
抽水植物は葉から空気を取り込んで根に送り、根が呼吸して二酸化炭素が放出されると聞きました。
ということは、抽水植物が植えられている環境では、水中の二酸化炭素濃度が上昇するということになるのでしょうか?
光沢さん

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。

植物の根の成長や根による栄養塩類の吸収のために必要とするエネルギーは、酸素呼吸によってまかなわれます。多くの陸上植物では、呼吸に使う酸素は根周辺の土壌の間隙に存在する空気から取り込んでいます。細胞膜を透過する機構は、単純拡散によります。一方、いわゆる水草(沈水植物、抽水植物、浮葉植物)が生育する湖沼の水底の土壌は多くの場合、嫌気的で、根が必要とする酸素は不足します。そのため、抽水植物では根が必要とする酸素を、茎葉部から送りこむ仕組みが発達しています。イネの水没した根では、酸素の通り道(通気組織)が皮層細胞の選択的崩壊により形成にされることが明らかにされています。ご存知のように、ハスでは地下茎(レンコン)に大きな孔が発達していますが、この穴は葉柄を通じて葉までつながっています。この通気孔は根への酸素供給の役割を担っていると考えられます。
では、ご質問に戻り、呼吸による有機物の分解によって生じたCO2はどうなるかというと、積極的な排出の仕組みは知られていません。他方、光合成に必要なCO2の取り込みに関しては、陸上植物では、空気中のCO2は気孔を通して葉肉細胞に供給されるとされていますが、気孔から細胞間隙に入った気体のCO2は、さらに葉肉細胞の細胞膜を通って細胞内部に入り、葉緑体に到達する必要があります。その経路としては、CO2は水に溶解して炭酸となり、細胞膜にあるアクアポリン(水チャンネル)を通って、濃度勾配に従って受動的に輸送されると考えられています。葉や茎では、一般に、夜間に呼吸によって生じるCO2も同じ経路で、逆向きに外部に排出されると考えられます。
一方、根の呼吸に伴って生じるCO2の行方は、よく解っていません。昼間は、茎を通って蒸散流に乗って葉に送られ光合成に使われることも考えられますし、根から受動的に排出されることも考えられます。根の細胞膜には、外界から水を取り入れるためのアクアポリンが存在しており、CO2はアクアポリンを通して濃度勾配に従って炭酸として排出されると考えられます。では、ご質問の「抽水植物が植えられている環境では、水中の二酸化炭素濃度が上昇するということになるのでしょうか?」に関してですが、根から炭酸として排出される場合、根近傍の濃度は一過的に上昇するかもしれませんが、炭酸は、水中での拡散や、水の流れによって、周辺の水中の濃度と均一化の方向に進むと考えられます。湖沼全体および局所的水環境はさまざまな要因で成り立っているので、実際問題として、根の呼吸により排出されるCO2の量やその影響を検出するのはなかなか難しいと考えられます。
(付記:本回答をまとめるにあたって、神戸大学の村上明男博士に抽水植物(イネ)に関する文献を教えていただきました。)
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-07-28
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