一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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稲作の農薬の使用について

質問者:   中学生   ゆいまある
登録番号5436   登録日:2022-08-20
学校の総合的な学習の時間で稲作についての研究をすることになったのですが、私は稲作の害虫における農薬の使用について調べることにしたのでそこでの参考にさせていただきたいと思って、質問を送りました。農薬は作物をを育てるうえで需要のあるものですが、使っていない農家の方もいらっしゃるのだと思います。しかし、稲の栽培においてはあまり聞いたことが無い気がします。水稲栽培では他の野菜より農薬をつかわない事ははるかに難しいのでしょうか。農薬は、稲を育てるうえで絶対に必要なものなのでしょうか。是非教えていただきたいです。よろしくお願いいたします。
ゆいまある 様

ご質問、有り難うございます。稲作に興味を持って頂いたことに、まずは感激しています。日本では、イネだけは自給できていますが、他のコムギやダイズなど、ほとんどの穀物は輸入に頼っている現状です。ゆいまある様が大人になった頃には自給できるようになるといいですね。

さて、虫害に対抗する農薬の使用について、特にイネについてのご質問にお答え致します。農薬は、大きく病害菌防除、害虫防除と雑草防除に分けられます。いずれも化学物質で、環境負荷が問題になっていますが、近年では農薬そのものも、ある程度の時間がたつと、光や積算温度で分解されるような化学構造になっては来ております。
しかし、人工物であるだけに、使う量は少なければ少ないほど、環境に与える影響は小さくなります。畑作物の無農薬栽培は、ご指摘の通り、かなり知られてきていますが、全体に占める割合はそれほどではありません。労働力がかなり必要なのが、問題です。イネの栽培でも、無農薬栽培は行われています。農水省から手引きも発表されています(<https://www.naro.go.jp/PUBLICITY_REPORT/publication/files/suitouyuukisaibai20200406.pdf> 水稲有機栽培の手引き.indd (naro.go.jp))。参考にしてみて下さい。無農薬栽培・イネで、インターネットを検索すると、たくさん事例が見つかると思います。

人の病気も一緒ですが、イネを含む作物も元気に育てば、病原菌、害虫あるいは雑草にも負けません。しかし、人に都合良く改良されている作物は、人にまもられて栽培されてきていますので、どうしても野生の植物よりは弱く、これらに負けがちです。それで、無農薬で栽培するために、いろいろな試みがなされています。アイガモは雑草対策で有名なですが、これ以外にタニシやカブトエビなどの力を借りることもあります。また、「冬水たんぼ」といいまして、イネの収穫後も田んぼに水をはって、雑草を抑える栽培方法をとっているところもあります。害虫対策は、雑草よりも難しいと思いますが、農薬の使用量が減ると、環境の生物多様性も高まり、害虫を捕食するトンボなどの昆虫やツバメなどの鳥類も増えることが予想されます。なお、多くの作物では食害されるとそれに抵抗する物質を作物自身で合成します。リンゴが褐変するポリフェノールとか、アブラナ科植物のイソチオシアネートと呼ばれる物質群です。食味や見た目などもかわりますので、無農薬栽培が絶対に優れているとも言えない現状です。なお、残念ながら、イネの抵抗力は、それほど強くありません。

農業で得られる収入がもっと増えれば、栽培に関わる人数や時間をもっとかけることができて、無農薬栽培がより広がるのかも知れませんが、現状ではなかなか困難だと思われます。これからも、植物、農業、環境などに関心を持って頂ければ幸いです。
山谷 知行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2022-08-22
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