一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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アポトーシスとプログラム細胞死とプログラムされた細胞死

質問者:   教員   額鷹
登録番号5440   登録日:2022-08-21
いつも,いろいろな疑問について調べさせて頂き,感謝しております。

さて,質問したいのは,アポトーシスとプログラム細胞死,プログラムされた細胞死という三つの用語(語句)は,同じ意味なのかということです。

UB BILOGYの『アポトーシス』のp.7で,田沼先生は,アポトーシスとプログラム細胞死の二つの単語を区別した方が良いと書かれています。

丁寧によむと,アポトーシスは,遺伝子によって「プログラムされた」細胞死であるが,プログラム細胞死は「発生過程のある特定の時期に特定領域の細胞が死ぬ現象を表わす言葉である」とあり,

(1)遺伝子にプログラムされた
(2)発生の特定の時期・特定領域=プログラムされた

という違いを説明されています。

この本が出てから20年以上たち,現在では,高校の教科書にも「アポトーシス」も「プログラム細胞死」も「プログラムされた細胞死」も載っています。

このQ&Aでも,登録番号2624で東山先生が「アポトーシス(プログラムされた細胞死)が起こっている」という言い回しをされていますし,登録番号1754では浅田先生が「プログラム細胞死(または、アポトーシス)とよばれています」と書かれています。

検索してみると,

プログラム細胞死は,その形態学的および生化学的な特徴の違いから,アポトーシス(apoptosis),オートファジー(autophagy),ネクローシス(necrosis)の 3 種類に分類されている.

というものも見つかりました(育種学研究10:157–16,2008)。

調べれば調べるほど,混乱するばかりです。

今は,高校生にネットで調べることを推奨する時代です。当然,こうした混乱状態を目にすると,教員に確認してくるわけですが,どのように整理して伝えればよいでしょうか?

生徒が見通しをつけられるよう,何か指針のようなものが頂けるとありがたいです。

宜しくお願いいたします。






額鷹 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。本質問には岡山大学の高橋 卓先生が下記の回答文をご用意くださいましたので参考になさってください。なお、補足すると、歴史的には、細胞死の形態学的特徴を示す用語として「アポトーシス」は「ネクローシス」に対比される形で定義されています。

【高橋先生からの回答】
「プログラム細胞死」の1つの場合として「アポトーシス」があるとみなすのが適当です。
アポトーシスと名付けられた現象は動物の発生で、例えばオタマジャクシの尻尾の消失が有名ですが、詳しい生化学的な研究から、カスパーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素が中心的な役割を果たすこと、DNAの規則的な断片化が生じることが特徴として挙げられます。しかし、プログラム細胞死(遺伝子によってプログラムされた細胞死)にはこのような特徴を伴わない場合も知られています。

植物の場合には、病原菌やウィルスに感染した時に病原と玉砕するような戦術として過敏感反応を引き起こすことがありますが、この場合のプログラム細胞死では動物のアポトーシスとは異なる生化学的な仕組みが働いています。ただし、カスパーゼに代わって液胞由来のタンパク質分解酵素が見つかり、ランダムですがDNAの分解も生じるなど、両者にある程度の共通性があること、また、アポトーシスの語源であるギリシャ語の「apo-(離れて)」と「ptosis(下降)」が枯葉が散ることに由来するなどの理由から、植物の細胞死も広義のアポトーシスと呼ぶことがあるのが現状です。

今後、いろいろなプログラム細胞死の分子レベルでの仕組みが解明され、用語がより明確に定義されることが望まれます。
高橋 卓(岡山大学理学部生物学教室-発生機構学分野)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2022-09-03
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