一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ジャゴケの受精

質問者:   その他   Masa
登録番号5521   登録日:2022-12-01
11月になってジャゴケの柄のない雌器托を見かけました。どのように受精するかネットで調べると同じ時期に雄器托ができて受精し、3月頃雌器托の柄が伸びて胞子が作られるとありましたが、同じ時期に雄器托を見かけません。見かけるのは5月頃です。その同じジャゴケを翌年の3月頃に見ると柄の伸びた雌器托ができていて胞子も作られていました。さらに観察を続けるとやはり5月に雄器托ができ、その後雄器托が作られることはありませんでした。なので両者が秋の同じ時期にできて受精するとは思えません。どのように受精が行われるか教えてください。
Masa 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問にはコケにお詳しい広島大学の嶋村正樹先生から下記の回答文を頂戴しましたので参考になさってください。

【嶋村先生からの回答】
ジャゴケは雌雄異株の植物ですが、雄株と雌株はしばしば混生して生育しています。そしておっしゃる通り、目に見えるサイズの雌雄の生殖枝(雌器托・雄器托)は別々の時期に見つかります。観察されている群落では、直径5 mm程度の成熟した雄器托が存在する、5月頃に受精が起こっているはずです。その時期に雌器托はまだ小さく、1mm以下の大きさで、葉状体の先端の小部屋のような組織に埋もれています。そのため、その存在にはなかなか気付かないと思います。その小さな雌器托の下部には卵細胞を格納した造卵器がすでにできています。受精が行われた雌器托は、その下部にぶら下がるように成長する胞子体とともに徐々に大きくなり、秋には直径5 mm程度の、柄がないキノコ型に成長します。受精が行われなかった雌器托は成長せず、小さいまま枯れてしまいます。10月頃に胞子体の内部で減数分裂が起こり、胞子が形成されますが、胞子体は柄が未発達の雌器托の下部に収まったまま越冬します。11月にご覧になったのはその姿です。翌年の早春に雌器托の柄が伸び、胞子体の先端部の蒴が割れ、やっと胞子が放出されます。つまり、雌器托と胞子体は、受精から一年近くかけて成長しているのです。面白いことに近縁種のヒメジャゴケでは受精は秋に起こり、ジャゴケとは受精の時期が重なりません。

受精の時期についての話はここまでにして、ジャゴケで見られる、受精の際の珍しい現象についても紹介しておきます。一般的には、コケ植物の受精では、造精器から鞭毛を持った精子が泳ぎ出て、造卵器の内部の卵細胞まで水中を泳いで到達すると説明されます。しかし、ジャゴケでは、雨天時や湿度の高い場合に、雄器托が吸水して膨らみ、内部にある造精器を押しつぶすことで、たくさんの精子を勢い良く空中に噴出します。空中に噴出した精子はまだ細胞壁に包まれており、風によって遠くに運ばれます。地面に落ちて水に触れると、精子は細胞壁から抜け出して泳ぎだします。コケ植物で見られる様々な精子散布様式については、植物Q&Aの他の質問への回答(登録番号3722)でも触れていますので、そちらもご覧ください。
嶋村 正樹(広島大学大学院統合生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2022-12-13
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