一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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窒素過多による野菜、果物の食味低下について

質問者:   会社員   ゲッコー
登録番号5553   登録日:2023-01-26
趣味で家庭園芸をやっております。
窒素過多になると野菜、果物等の食味が落ちると聞きました。
植物の代謝経路を勉強したどころ、呼吸には解糖系といわれるグルコースを分解する経路があり、それ以降の回路でアミノ酸等を合成する経路になっていました。
これを見て思ったのですが、窒素過多の場合は余剰の窒素の代謝をしようとグルコースなどが積極的に分解する方向に傾いてタンパク質がたくさん合成され、その結果グルコース等が減り食味が低下すると考えたのですが、この考え方は正しいでしょうか。
ご回答いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
ゲッコー 様

ご質問、有り難うございます。
植物の種類で多少は異なりますが、植物体内の全炭素と全窒素の比率は、ほぼ一定に保たれています。つまり、土壌から吸収される栄養成分の中で、最も大量に必要な窒素が、光合成で合成される可溶性の糖類や不溶性のでんぷんやセルロースなど多糖類の合成に密接に関わります。窒素はいつも不足しがちな成分ですので、根の周りにあれば、積極的に、また効率良く窒素(この場合、畑地では硝酸イオン、水田ではアンモニウムイオンの形で)が吸収されます。根で吸収された窒素のほとんどは地上部に輸送され、光合成で有機化されて出来る糖由来の有機酸に同化され、様々なアミノ酸を作ります。この際、光合成の電子伝達系で合成されるエネルギー(ATP)や還元力(NADPH)が必要になります。こうして合成されたアミノ酸を利用して、タンパク質や核酸が合成されます。ご指摘のように、有機酸の合成には、呼吸代謝でのクエン酸回路(TCAサイクル)が重要な機能をしています。また、光合成の一部の反応である光呼吸という代謝によっても、アミノ酸(グリシンとセリン)が合成されます。窒素の有機化のためにTCAサイクルが回りすぎると、可溶性の糖類は植物体内に残りにくいことになります。

さて、野菜の品質との関係では、窒素が多ければ栄養成長が活発になりますので大きな個体を栽培できます。果実は生殖生長の後に出来ますので、栄養成長で合成された成分が輸送されて肥大します。食味のほとんどは、しょ糖や果糖などの糖類が鍵を握っていますので、野菜や果物の食味で考えると、これらの糖類が残るような状況、言い換えれば窒素成分が適正かそれ以下であることが望ましいと思われます。窒素過多になりますと、糖類全部を駆使して同化してしまいますので、残存する可用性の糖類は少なくなり、食味は落ちるというご指摘の考え方は概ね正しいかと思われます。一方で、アミノ酸の中には、グルタミン酸やアラニンなど旨み成分があります。他方、苦みを感じるようなアミノ酸も多数ありますので、バランスが大切になりますね。

論点が多少ずれますが、植物は、いつも窒素栄養に飢えているといっても過言ではなく、一般に吸収する窒素が多いほど、活発な光合成を伴って収量が増えます。動物にとっての栄養を考えると、タンパク質や炭水化物、脂質は極めて重要になりますので、窒素過多気味で大きな植物個体を得ることも、重要な観点になるかと思います。
山谷 知行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-01-27
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