一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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実験に用いる植物について

質問者:   その他   石谷 和歌子
登録番号0560   登録日:2006-03-13
はじめまして。

大学で植物生理学について学んでいるのですが、植物ホルモンに関する論文を調べていたところ、レタス(Lactuca sativa L. cv. Grand Rapids)を実験に使用しているものが多く見受けられました。
なぜレタスの中でもこの種を用いるのですか?
また、実験材料として用いるにあたり、ほかの植物と比べてレタスにはどのような利点があるのですか?

できるだけ様々な面からのご説明をお願いします。
よろしくお願いいたします。
石谷 和歌子さん:

なかなか細かいところまで気がつきましたね。確かにレタスのGrand Rapidsという品種は実験材料として頻繁に使用されました。特にフィとクローム研究の初期には欠かせない品種とさえ言われたものです。レタスにはたくさんの品種があり玉レタス、葉レタス(チリメンレタス)など4つないし5つのタイプに大別されていますがGrand Rapidsは葉レタスに属する品種です。米国では古くから知られた品種で1923年にはベストファイブ品種の中に入っています。
植物研究者、特に実験生物学者は自分が研究したい現象や反応にもっとも適した実験材料を注意深く選びます。1930年代に米国農務省の研究者が種子の発芽に対する光の影響を調べたときレタス種子を使って吸水種子に赤色光をあてると発芽するけれども、遠赤外光を照射すると発芽抑制がおこることを報告しています。その後1952年に同じく米国農務省の研究者 H. A. Borthwick, S. B. Hendricksらがこの現象を詳細に調べ、赤色光と遠赤外光を交互に照射すると、最後に赤色光を照射したときにのみ発芽し、遠赤外光が最後のときは発芽が抑制されることを確認しました。これがフィトクロームの発見となったたいへん重要な研究です。このとき発芽実験に使用したのがレタスの品種Grand Rapidsだったのです。もちろんBorthwickらはいろいろな材料を試験した結果この品種を選んだとは思われます。レタスにはGrand Rapidsのように種子発芽に光を要求するものと光を要求しない他の品種がありますので、続く他の多くの研究者達も赤色光、遠赤外光による可逆的生理反応の研究にもこの品種を使用するようになったと思われます。先人の研究結果と自分の研究結果とを比較検討することは必要なことで、同じ材料を使用することが必要な場合はたくさんあります。このような例は他にもあります。エンドウのAlaskaという品種はオーキシンや成長の研究にJames Bonner, Arthur Galstonらによって使用されはじめ、その後エンドウといえばAlaskaを好んで使用されるようになっています。
植物の研究材料、特に実験科学の材料としては、均一の性質で容易に大量に入手できること、実験室内で種子から育成できることなどが求められますので、自然と身近にある栽培品種を使用するようになります。先駆的研究をしたグループが使用した実験材料は、その先駆的研究と同じように多くの研究者に大きな影響を及ぼしますし、そのグループに所属した若手の研究者が独立したときには手慣れた植物材料を使用することから独自の研究が始まることは自然のことです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-03-13
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