一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物体を移動する水の意義

質問者:   教員   とも
登録番号5609   登録日:2023-04-17
いつも拝見しております。ありがとうございます。

さて、蒸散について調べている時、
・根からの吸水と葉からの蒸散によって水は常に入れ替わっている
・蒸散が盛んな葉では、葉の中の水が1時間で4回入れ替わる計算
・光合成の基質として使われる水は、蒸散量のたった0.4%
・蒸散によって葉温が調節される(登録番号0841
であることを知りました。そこで質問です。
これらの水の移動による影響のうち、葉温調節が占める割合はどれくらいで、他にどのような機能が挙げられるのでしょうか。

ご回答の程どうかよろしくお願いいたします。
とも様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。多くの陸上生物がそうである様に、植物の生命維持にとって水の補給は欠くことができません。植物の成長における水の働きと必要性(他にどんな機能があるの)については登録番号5552を読んで下さい。根から植物体内に吸収された水は道管を通って地上部に運ばれ、最終的に殆どが蒸散によって葉の気孔から大気へと放出されます。実際に植物体内で消費されたり、貯蔵されたりする水分量は吸収される水分のごく一部にすぎません。水は植物体の表面からも蒸発によって失われますが、これは気孔蒸散に比べてやはり少ないです。蒸散にしろ蒸発にしろ、液体の水が気体の蒸気に相転換する時エネルギーが必要ですが(水の潜在熱)、これは温度に依存しており、20℃では2,452joules/g のエネルギーが使われます。つまり、それだけのエネルギーが失われるので、その結果葉(植物体)の温度は低下することになります。
葉の温度は葉とその周囲との間のエネルギーの流れ(flow)がどうなるかによって決まります。もし葉がエネルギーを失うよりも取り込むほうが多ければ、葉の温度は高くなり、その逆だと低くなります。葉が取り込むエネルギーは主として直射日光とか反射光のようは短波長放射ですが、大気や周囲の諸物体からの長波長の放射にもよるものです。この様な過程は熱収支の問題として物理的な事柄でもあります(登録番号3698を読んで下さい。)
蒸散の速度は葉と空気との間の水蒸気圧あるいは密度の差によって決まります。そしてそれは様々な外的因子の影響を受けます(登録番号3698)。従って、ご質問の「これらの水の移動による影響のうち、葉温調節が占める割合はどれくらい」かは、強いていうならば、蒸散は潜熱を奪うわけですから、蒸散(極く少量だが蒸発)する水は全て結果的に葉温の低下に働いていることになり、根から吸収された水で体内で消費されたり、貯蔵されたりする部分を除いた水が全部その働きをしていると言って良いでしょう。
なお「気孔の開閉」については、登録番号3449, 4867を読んで下さい。


勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-04-18
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