一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物の危機管理システムについて

質問者:   その他   木下茉美
登録番号0735   登録日:2006-06-04
本で調べてみたところ、植物の危機管理システムには、葉を食べる動物から身を守るためのシステムがあり、たとえば、オジギソウの就眠運動とか、西洋ヒイラギ・西洋産サンザシのとげとか、ナガハグサの葉の珪石とか、トケイソウのドクチョウの卵への擬態とかが、あげられました。
他にも寒さに体制をもつ植物について調べました。
その過程で、アレロパシーという言葉が出てきました。
アレロパシーというのは、危機管理とどう関係しているのですか。
他にどのようなものがありますか。

動けない植物はもっと工夫をしているはずです。
これ以上調べられなかったので、もし、ほかにあげられるとしたら、教えていたたげれば、幸いです。
よろしくお願いします。
木下茉美 さん

アレロパシーとは何か、植物の「危機管理」とどんな関係があるのか、という2つの内容を持つご質問ですね。
アレロパシーという語はドイツの植物学者Hans Molischが名付けその定義をしていて現在も受け入れられています。「植物が他の植物に化学物質を介して影響を与え合う」現象をアレロパシー(allelopathy, ギリシャ語のallos=他の、pathie=感ずる)としています。日本語では「他感作用」と言っています。この「植物」の中にはすべての「微生物」をも含んでいます。ですから、植物が何らかの化学物質(根から出すもの、葉から出す揮発性物質など)を環境に放出し、この化学物質に植物が生理学的応答をすることです。このとき影響を受ける(他感作用を受ける)植物は同じ種の植物でもあり得ます。「植物が相互に影響し合う」ことはほかにもあり「競合作用」はその代表例ですが、競合作用は植物が環境にある栄養素、水などを「奪い合って」お互いに影響しあっていますのでアレロパシーとは区別されています。
さて、「危機管理」との関係ですが、植物が環境から生存に不利な条件を受けたとき植物側は自分の個体あるいは種が生存できるような仕組みを持っています。病気に罹ったときに病原菌を殺したり増殖を抑制したりする反応をおこします。また、塩の濃度がある程度高くなるとそれに耐える反応をおこします。このような生存に必要な環境刺激応答はたしかに「危機管理」と見られますが、アレロパシーはこのような「危機管理」と表現される応答反応とは少しばかり違います。菌類(カビ類)が出す「抗生物質」は菌類をおかす細菌類を防御する効果があり「危機管理」と言えるかもしれません。セイタカアワダチソウが出す特殊な化学物質は近隣の植物全体に成長抑制作用がありセイタカワダチソウ自身にも負の作用を示すので「危機管理」とは言えませんね。また、自身には毒性はないけれども他の植物種の種子発芽を抑制するアレロパシー物質を出している場合がたくさんあります。このような場合には生態系における優性種となって種族保存に役立っていることになります。このようにアレロパシーは珍しい現象ではなく、たくさんの植物種で確認されていますし、そこに働く化学物質もたくさん分かっています。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-06-12
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