一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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街路樹への菌根共生の有無について

質問者:   大学生   サカタ
登録番号0915   登録日:2006-07-21
大学で、都市緑地の菌根菌についての研究をしたいと考えています。
そこで、色々と論文を調べたのですが、街路樹に外生菌根菌が共生しているのかということが分かりませんでした。
一般に外生菌根菌は森林にいるとされていますが、都市部の街路樹に外生菌根菌が共生している可能性はあるのでしょうか?また、内生菌根菌はどうでしょうか?
植栽後、年月の経っている街路樹には菌根が感染しているのではないかと思っています。もしありえるのなら、共生種を調べてみたいのです。
サカタ さま
 みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を東京大学大学院農学生命科学研究科の宝月岱造先生にお願いしましたところ、以下のような回答をお寄せ下さいました。お考えのご研究は興味のあるご研究のようですので、頑張って良い報告が出せますよう祈っております。


 程度の差はあれ、過去に街路樹の菌根菌について調べた人はいるとは思いますが、学術雑誌の論文として体系的にまとまった形の報告は知りません。しかし、一般的に言って、外生菌根菌にしても内生菌根菌にしても、菌根共生が可能な樹種であれば、日本の様な土壌と気候条件下の街路樹には、多かれ少なかれ共生していると考えて良いと思います。多分、植栽前の苗木にも、既に様々な菌根菌が共生していると思います。実際の調査では、街路樹の根を勝手に掘らせてもらえない、育苗、植栽時点での苗木の状況が解らない等、統計的検証に耐えうるデータを得るには、かなり厚い壁があるように思いますが、挑戦するのであれば、ぜひ、きちんと調べて、信頼性の高い良い報告を世に出して欲しいと思います。

 参考までに、共生菌の種を調べる方法について紹介します。これは、DNA解析の設備があれば可能です。ただし、これまでに経験の蓄積がない研究室では、かなり困難を伴うでしょう。
 外生菌根の場合: 過去においては、菌根の形や色などから共生菌が同定されていましたが、今では、形態では同定が出来ないとされています。現在比較的頻繁に行われている同定方法は、菌根からDNAを抽出して、共生菌種を区別するのに適したリボソームDNA内の特定部位をPCR増幅し、その増幅断片の塩基配列をデータベースと照合して種を推定するという方法です。しかしこの場合も、データベースがあまり充実していないので、種小名まで同定するのは、かなりしんどいでしょう。
 内生菌根の場合: ご存じと思いますが、内生菌根は、外見からは見分けられません。根を特殊な方法で染色し、根中に樹枝状体等を確認して初めて存在がわかります。この樹枝状体には種の同定が出来るほどの形態的違いは有りません。また、土壌中に出来る胞子には、かなり多様な形態的特徴があるのですが、通常土壌中にたくさんある胞子の菌種と根に優占的に共生している菌種とは一致しないので、これも菌根形成菌種の同定には使えません。従って、外生菌根菌と同様、内生菌根の場合も、DNA解析によって共生菌種を同定することになります。ただし、データベースは、外生菌根菌よりも充実していません。

宝月 岱造(東京大学大学院農学生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2006-07-28
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