一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ダイコンのアミラーゼ

質問者:   一般   西正弘
登録番号0925   登録日:2006-07-27
小中学生の学習塾講師です。

デンプンの懸濁液にヨウ素デンプン反応をさせておき、そこにダイコンおろしの絞り汁を加えると青紫色が消えることから、ダイコンの根にデンプン分解酵素が存在することを確かめるという実験をしました。その際疑問に思ったことです。

ダイコンの根にアミラーゼが豊富に含まれるということは、そこでデンプンの分解が活発に行われているということだと思います。
しかしダイコンの根からはデンプンは取り出せません。デンプンが蓄積されることなくどんどん分解されているのでしょうか。

ダイコンも転流物質は糖(スクロース?)だと思いますが、やはり一度デンプンに再合成された後、アミラーゼによって糖に分解されて利用、或いは貯蔵されるのでしょうか。
すぐに分解してしまうならデンプンにする必要もないのでは、と思ってしまいます。

店頭でみるようなダイコンは農作物として改良されたものでしょうが、そもそもダイコンの太い主根はどのような役割をもっているのでしょうか。

上記のような点に関して、ダイコンにおける光合成産物の輸送やアミラーゼの本来の機能について教えていただければと思います。
よろしくお願いします。
西正弘 さま

 興味ある観点からの、ダイコンの根でのデンプンとアミラーゼの関係についてご質問ありがとうございます。これは植物が光合成産物を貯え、次世代の種子を残すための戦略にも関わる問題です。

まず、ダイコンの根にデンプンが含まれているか、いないかについてです。多種類の植物からのデンプンを研究されてこられた近畿大学農学部・杉本温美 教授にお尋ねしました。例えば、中国ダイコンの根には生育時期によって含量は変化するけれども、デンプンはデンプン粒として1〜0.5%存在しているとのことです(澱粉科学35: 19 (1988))。ダイコンの根は、ジャガイモのように多量のデンプンを含んでいませんが、ダイコンの根は〜90%が水分であることからすれば、そんなに少ないわけでもありません。ダイコンの根からデンプンは取り出せなかったと、ご質問にありますが、若い大根の根で、できるだけ収穫直後の根の切片について、ヨード・デンプン反応で確かめて下さい。

アミラーゼは植物細胞中で、原形質ではなく成熟細胞の大部分の体積を占める液胞の中に局在しています。液胞にはアミラーゼ以外の加水分解酵素も多く含まれています。これに対しデンプン粒は液胞の中ではなく、原形質に存在しています。このため、同じ細胞にデンプンとアミラーゼがあっても相互に接触していないため、デンプン粒がアミラーゼによって分解を受けることはありません。しかし、根の細胞を壊すと、例えば、“大根おろし”にすると、デンプンとアミラーゼが接触してデンプンは消えてしまうでしょう。

ではなぜダイコンの根がアミラーゼをもっているのでしょうか。ダイコンの葉の光合成産物がスクロースの形で根に転流し、これからデンプンが合成されるのはご質問にある通りです。植物は光合成産物である糖をその重合した形のデンプンで貯えますが、これは植物にとって進化の上での大きな進歩であったと考えられます。これによって多量の糖を浸透圧の問題なしに貯えることができるためです。ダイコンの根はジャガイモに比べるとデンプンの貯蔵量は少ないのですが、それでも、冬大根であれば秋―冬での光合成産物を根に貯え、春に種子ができるときそのエネルギー源として根のデンプンを利用していると考えられます。冬、食用として太っていた根も、春、花が咲く頃まで畑に放置しておくとやせてくるのは誰しも経験するところです。根の細胞はそのような(老化)時期になるとデンプン粒と液胞のアミラーゼが接触できる状態になると考えられています。樹木でも光合成産物をデンプンの形で樹皮の外側の柔細胞に貯え、これを用いて春、新しい芽、葉を作るのに用いています(本質問コーナー、登録番号0690の回答参照)。光合成産物の転流と貯蔵については、登録番号0128の回答もご参考になると思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-07-31
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