一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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成長点の細胞分裂

質問者:   自営業   博行
登録番号0926   登録日:2006-07-27
成長点の細胞が皆、成長点の細胞で在り続けたら成長点はどんどん大きくなって塊のようになってしまうと思うのですが、そうはならずに成長点は成長“点”のままでいるという事は2つに分裂した細胞の半分が成長点の細胞でいる事をやめて他の組織になるという事でしょうか?
もしそうなら、分裂した細胞のが成長点の細胞でいる場合と他の組織に変わる場合の違いはどのようなメカニズムが働いて起こるのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
博行さま

みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を、茎や根の先端の分裂組織のことについて研究をなさっておられる京都大学の岡田清孝先生にお願いいたしましたところ、以下のような詳しい回答をお寄せ下さいました。きっと、お役に立つと思います。なお、大変お待たせしましたこと、お詫びいたします。


回答
 これはとても重要な問題に気付かれましたね。成長点は分裂組織とも呼ばれる分裂能力の高い細胞の集団で、茎と根の先端にあって茎と葉や根の組織を作ります。植物が成長を続ける間は、茎や根が伸び、次々に葉や花ができますが、これは成長点の細胞が分裂して茎や葉、根の細胞に変化(この変化を細胞分化と言います)していくからです。しかし、分化した細胞は分裂能力が低下することが知られています。逆に、成長点にあって盛んに分裂する細胞は分化していません。ですから、質問のように、成長点の細胞が分裂して生まれた娘細胞が分化せずに分裂を繰り返すならば、巨大な成長点ができるだけで、新たな組織は作られないことになります。植物が成長を続けることができるのは、成長点で生まれる娘細胞の中の分化し組織を作る細胞と分化せず高い分裂能力を保つ細胞の数が、常に一定の比率を保っているためと考えられます。
 それでは、分化する細胞と分裂し続ける細胞は、どのようにして区別されるのでしょうか。まず、研究が進んでいるシロイヌナズナの根の先端にある成長点について説明しましょう。根の成長点を根端分裂組織と呼びますが、根端分裂組織の中心には、4個の静止中心と名付けられた細胞が集まっており、この細胞群を取り囲んで数十個の始原細胞と呼ばれる細胞があります。静止中心細胞はほとんど分裂しませんが、始原細胞は活発に分裂します。各々の始原細胞は一方の側で静止中心細胞と接しているので、分裂によって生まれた2個の娘細胞のうち、一つは静止中心細胞と接しているが、他方は離れることになります。静止中心細胞に接している方の娘細胞は分化せず分裂を繰り返しますが、静止中心細胞と接していない方の娘細胞は分化して根の組織を作ることが知られています。この観察から、次のような機構が考えられています。
 つまり、分化を抑制し分裂を促進するシグナルが静止中心細胞から始原細胞に送られることと、このシグナルは隣合った細胞には伝わるが、離れた細胞には伝わらないこと、です。このシグナルを受け取った細胞は分裂するが分化せず、シグナルを受け取らなかった細胞は分化するが分裂しないことになるわけです。このような仕組みで、娘細胞のうち一方は親細胞と同様な分裂する性質を持ち、始原細胞としての役割を受け継ぐけれども、他方はこの性質を保つことができず分化すると考えられます。ただし、静止中心細胞から送られるシグナルの本体や、始原細胞がシグナルを受け取る仕組みは未だ分かっていません。それでは、茎の先端にある成長点(茎頂分裂組織と呼びます)にも、根と同様な仕組みが働いているのでしょうか。実は、茎頂分裂組織は根端分裂組織より含まれる細胞の数が多く、構造が複雑で、静止中心細胞や始原細胞と思われる細胞を特定することが困難です。そのために研究が遅れていますが、根端分裂組織と同様な仕組みが働いていると考えられています。細胞を部屋と考えた時に、すぐ隣の部屋には伝わるが、少し離れた部屋には伝わらない連絡の仕組みはどのようなものでしょうか。考えてみるとヒントが得られるかも知れません。

岡田 清孝(京都大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2006-08-09
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