一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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単子葉類と双子葉類について

質問者:   中学生   夜神 月
登録番号0937   登録日:2006-08-07
・どうして単子葉類は、双子葉類から進化してきたのか、その理由と進化したことでどの点がどのように良くなったのか教えてください。
・被子植物と裸子植物についても上記と同じことを教えてください。           
夜神 月 さま

みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を村上哲明先生にお願いしましたところ、村上先生が、回答者として最も適当な方と思われた、京都大学の戸部 博先生に質問を転送し、回答を依頼して下さいました。村上先生から戸部先生への依頼のメールと一緒に、戸部先生から頂いた回答をお送りします。現時点で手に入れることのできる最高の回答と思いますので、しっかりと勉強して下さい。


京大・理・植物 戸部博さま(cc.柴岡先生)

以下のようなメールを柴岡先生からいただきました。
最も原始的な被子植物(アンボレラ、スイレンなど)が双子葉植物なので、双子葉植物(ただし、原始的な方の双子葉類)から単子葉植物が生じたのは確かですし、単子葉植物が双子葉植物とは違う数々の特徴を持っていることは私も知っています。レーブンさんの教科書類などをもとにして、それらを列挙することは私にも難しくありません。しかし、それが原始的双子葉類と比べて、どのようにより優れているかという観点で考察してみたことは私には一度もありませんし、教科書にもそのような観点での記述は見あたりませんでした。もちろん、どのように優れているかなどと言うことは仮説の域を出ることは少ないのでしょうが、今回質問してきた中学生は、そのような仮説を聞きたいようですね。この質問に答えるなら、日本では戸部さんがベストだと思います。答えてあげてもらえますでしょうか。

一方、被子植物が裸子植物と比べてどのように優れているかは、教科書類にもたくさん記述がありますし、高校の教科書や参考書にも記述があります。高校の参考書などを読んでみたらというのでも良いかとは思います。逆に、以前、戸部さんから聞いたように、例えば道管よりも仮道管の方が凍結には強くて、寒い場所では仮道管を持つ裸子植物の方がより進化した道管をもつ被子植物よりもすぐれていて、だから冷帯にいくと針葉樹林になることなどもついでに教えてあげても良いかも知れませんね。つまり、全ての点で被子植物の方が裸子植物よりも優れているわけではないと言うことですよね。

村上 哲明

村上さんから回されてきた質問にお答えします。
私の判断もかなり入っておりますが、お役にたてば幸いです。

1.「どうして単子葉類は、双子葉類から進化してきたのか、その理由と進化したことでどの点がどのように良くなったのか教えてください。」

単子葉植物は、種数(約52,000種)は被子植物のほぼ4分の1に当たります。単子葉植物には、双子葉植物には見られないユニークな特徴が沢山あり、その一つ一つが双子葉植物と比べたとき利点かも知れませんが、どのような利点があるのか、まだよく分かっておりません。
例えば、1枚しかない子葉は、双子葉植物に見られる2枚の子葉がくっついて1枚になったという考えがありますが、それがどのような利点をもたらしたか、よく分かりません。

単子葉植物の際だった特徴の一つに、全種が草本であるという点があります。これは、白亜紀の初め(1億2-4千年前)被子植物が裸子植物から天下を完全に奪った頃、単子葉植物の祖先がモクレンやクスノキの祖先(これらは木本)から分かれているのですが、その際に、年輪をつくる形成層という分裂組織を捨てたことになります。
ところで単子葉植物のなかでも祖先に近いと考えられている植物群(例えば、ショウブやオモダカの仲間)は今でも水の中や湿地で暮らしています。そこでは冬や乾期(熱帯)になると、植物は葉を枯らし、栄養分を貯めた地下茎で休眠します。水の中は、植物の休眠場所としてもっとも安定した穏やかな環境と言えるかも知れません。
一方、双子葉植物には木も草もあり、それはそれで生存のためのさまざまな工夫がありますが、単子葉植物は祖先が水や湿地に避難したことから始まったのかも知れません。実際、単子葉植物は水の中から始まったという考えも古くからあります。
しかしまだ単子葉植物と双子葉植物のどれがもっとも近い親戚か、という問題が解決しておりません。DNAを使った最新の研究では、単子葉植物とマツモ(キンギョモ)が近いというデータが出ております。それでも両者には大きな開きがあって、そのことが単子葉植物の失われた過去がいかに大きいかということを表しています。

植物進化の大きな問題の一つが、単子葉植物の起源です。どの双子葉植物と祖先が近いのか、化石(単子葉植物は材木がないので、化石が見つかりにくい)はいつまで遡って発見できるか、それらが生育していた環境は?、など、こうしたことが将来明らかになってくれば、単子葉植物がなぜ、どのような植物から、進化したか、その理由はなぜ、どこが有利なのか、ということももっと分かってくると思われます。

2.「被子植物と裸子植物についても上記と同じことを教えてください。」
こちらの質問の答えは比較的簡単です。その秘密の代表は「花」(+子房)です。被子植物は、裸子植物にはない「花」(+子房)を新たに獲得しました。花はつまり花弁のことです。花を獲得したことによって、さまざま動物(昆虫や鳥や、、、)を引き寄せて、花粉を運ばせています。裸子植物は、ソテツの仲間(とグネツムの仲間)を除けば風媒です。動物を引き寄せるための報酬として、花は花粉や蜜を用意しましたが、それでも確実に動物に花粉を運ばせて子孫を残すことに成功しました。
子房は、受精後、中に種子を入れた果実になりますが、それによって、多様な種子散布の方法を獲得しました。これも、子孫繁栄のために重要な武器になったと考えられます。現在、被子植物は235,000種もありますが、1つの祖先から分かれて進化してきました。なぜそんなに沢山の種に分かれたかというと、それぞれ、いかにして受粉し、受精し、作った種子をいかにして散布するか、という点で固有の工夫してきたためです。

「花」(+子房)の他にも、花粉の層状構造や、道管や師部(伴細胞)の獲得など、裸子植物にはない沢山の利点があります。しかし、これらの説明は少し難しすぎるので、大学生になったら勉強してください。

戸部 博(京都大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2006-09-09
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