一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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春化処理

質問者:   教員   einstein
登録番号0988   登録日:2006-08-18
春化処理の事例についての質問です。高校の教科書には「秋まき小麦を春蒔いて結実させるには、低温での処理が必要で、低温で処理し、それを春化処理という。」と記述されています。
低温で処理して花が咲くようにするのを春化処理と思って、チューリップなどの秋まきの球根を冬に咲かせるために冷蔵庫に入れるのをその例にあげようとしたら、チューリップは花芽が低温に入れる前にできているので春化処理の例ではないと研究している方から指摘を受けました。秋まき小麦以外に春化処理の例はないのでしょうか?
是非身近な事例で生徒にこの現象を示したいのですが、どのような例があるのでしょうか?
einstein 様

教科書に出ている例だけでなく、生徒になじみの深い事例を探そうという姿勢に共感を覚えます。

まず、春化について簡単に説明しましょう。園芸などでは、チューリップなどのような球根類の低温処理による開花促進も春化の例として紹介されている場合もありますから、einsteinさんが挙げている例も誤りとばかりはいえません。さて、春化はもともと穀類(コムギやライムギ)の秋播き性品種の研究から発見された現象で、吸水させた種子や芽生えを人工的に長期間の低温にさらすことで、常温に戻したときに速やかな花芽形成を可能にすることを「春化処理」といいます。自然界では、冬の低温を経験することで、翌春の長くなっていく日長に応答して花芽形成ができるようになる現象で、秋に発芽して翌春に花芽形成をする長日植物に一般にみられる現象です。これらの植物の場合、秋に発芽した時、日長は花芽形成を誘導するのに十分な長さ(長日条件)であることがままあります。ですから、そのまま日長に応答して花芽形成をしてしまうと、冬に花を咲かせることになります。しかし、実際には、発芽したばかりの植物では日長(長日条件)に対する応答性が抑えられており、花芽形成はおこりません。春化は、冬の低温を経験する過程で、この日長応答性に対する抑制が徐々に解除されていく現象であると理解されています。

身近な植物での春化現象の例ですが、ナズナやアブラナ属(セイヨウナタネやキャベツなど)などのアブラナ科の植物が誰でも知っている植物の例だと思います。切り花としてよく見かけるものでは、トルコギキョウがあげられます。アブラナ科の植物の春化に関しては、冬の間に細胞の中でどのようなことが起きているのかが、遺伝子やタンパク質のレベルでかなりよくわかってきています。
京都大学
荒木 崇
回答日:2006-09-09
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