一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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果物の糖度について

質問者:   中学生   上原 千波
登録番号0992   登録日:2006-08-19
夏休みの自由研究で、糖度計を使って果肉(果汁)の糖度を計って、産地や種類による糖度の変化があるかどうかを調べています。
しかし糖度を計測していくうちに、果物は大体、外側の果肉よりも内側(中心)の果肉のほうが糖度が高いことが分かりました。
そこで質問ですが、果物はなぜ外側の皮に近いところよりも内側の果肉の方が糖度が高く、甘いのですか。

お願いします。
上原 千波 さん:

なかなか面白いことに気がつきましたね。多肉質で糖や酸などが適度に貯まり、生食できる果実を果物といっていますが、雌しべの基部にある子房やその周辺の組織などが肥大して多肉化したものです。最初に、果実形成の経過を簡単にご説明します。雌しべが受粉すると子房の肥大が開始しますが、はじめは細胞分裂が盛んで細胞数を増加させます。種類によって違いますが、ある程度の細胞数に達すると、各細胞の肥大成長がはじまり、果実が急速に大きくなります。果実が一定の大きさに達すると、肥大成長は停止して、成熟(ripening)過程に入ります。細胞分裂期、肥大成長期には多量の光合成産物(主としてショ糖やソルビトールなど)や窒素化合物が転流されてきます。果実は貯蔵器官ですので細胞分裂や肥大生長などの細胞活動に必要以上の物質転流があり、未熟果実では転流物質は主としてでん粉に変換され貯蔵されます。肥大生長期の後半になると、でん粉から有機酸、フェノール成分などを合成し、蓄積するようになります。大きくなっても未熟な果実は、囓ると、固く、粉っぽい感じで酸味が強かったり、渋かったりするのはそのためです。成熟期に入ると、でん粉からの糖類合成、アミノ酸や香気成分の合成、色素類の合成、細胞壁の部分溶解がすすみ、固有の色づきと香りがあり、甘酸っぱく、軟らかい果実となります。
 さて、ご質問の「なぜ中心部がより糖度が高いのか」ですが、上に述べたような果実内の変化は均一に起こるのでなく、中心部から外側に向かって進みます。言い換えると、「熟する」過程は中心部から外側に向かっておきますので、ふつう中心部は外側に比べてより軟らかくなります(細胞壁の溶解がすすんでいる)。リンゴなどでは半分に切ると中央部が半透明になって特に甘い部分があるものがあります。「みつ入り」と呼んでいますが、ソルビトールが特にたくさん蓄積したためです。中心部では種子形成という違った過程が進行していて未熟種子の影響があること、果実の外側から外果皮、中果皮、内果皮という子房のときには性質の少し違う組織が融合して出来ていること、などが原因となっていると考えられます。このような果実の生長、成熟の進行や、糖類蓄積などの生化学変化の進行は、果実が生育する地域、土質、施肥の仕方、日照、雨量など、などの広い環境条件によって大きく変わります。ですから、同じ品種の果物でも、産地、収穫時期、収穫後の日数などで糖度も違います。産地、購入日などとともに、糖度計で測る場所と糖度、食べたときの「甘さ」「美味しさ」を比べたりしたら面白い自由研究になるかもしれませんね。工夫してみてください。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-08-28
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