質問者:
一般
okb
登録番号3369
登録日:2015-09-15
森林インストラクターを目指して、勉強を重ねていたら疑問が生じました。植物生理学とはすこし離れるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。みんなのひろば
間伐しない人工針葉樹林と照葉樹林について
間伐などの管理を放置した人工針葉樹林では林冠が、閉鎖して日射量が不足するので下層植生が乏しく表土が流出する
ということを学びました。
「日射量が不足するので下層植生が乏しい」というのは
関東以南の自然植生である照葉樹林でも同じではないでしょうか? ということは照葉樹林でも表土が流出しやすく
土砂崩壊なども起きやすいのでしょうか?
あるいは照葉樹林の場合は別の要因で表土流出は少ないのでしょうか?
okb 様
みんなのひろばへのご質問有り難うございました。頂いたご質問の回答を東京大学の寺島一郎先生にお願い致しました所、以下の様な回答をお寄せ下さいました。参考文献の紹介もありますので、しっかり勉強して下さい。
【寺島先生のご回答】
人工林では、一般に遺伝的な性質の揃った稚樹を同時に植えます。間伐をしないと、個体間の光を巡る競争が激化します。なまじ齢と遺伝的な性質が揃っているために、競争にはなかなか決着がつきません。競争に負けそうな個体もひょろひょろと伸び、高さだけは勝者についていこうとします。こうした理由で、林全体で樹冠の高さが同じで、そこにびっしりと各個体の葉が詰め込まれます。林床は真っ暗になってしまいます。
ついでにいうと、ひょろひょろと伸びた負けそうな個体は、力学的な強さを犠牲にして高さを稼いでいますから、座屈しやすい(へたりこみやすい)状態です。大雪などで簡単に座屈します。また、台風などで数本の個体が同時に倒れると(あるいは数本を伐採してもいいのですが)、そのまわりの個体も倒れてしまうほどです。人工林に適当な間伐が必要な理由はここにあります。
しかし、天然林ではこういうことは起こりません。天然林では、同種の個体といえども、発芽の時期が揃う事はまれですし、遺伝的にも多様性があります。ましてや、森には多くの性質の異なる種が共存しています。高さを巡る競争の勝負は簡単に決まり、被陰された個体はひょろひょろと伸びずにじっと耐えるか、枯死するかです。こうしたメリハリがあるので、林床が真っ暗になることはありません。
照葉樹林の林床は、たしかに落葉樹林の林床よりも暗いことが多いのですが、われわれの印象はそれほどあてになりません。なぜならば、われわれの目は緑色光に対して最も感度がよいからです。一般に、落葉樹の葉の方が照葉樹の葉よりも薄く、面積あたりのクロロフィル量も少ないようです。このため、落葉樹の葉の緑色光の透過率は照葉樹の葉の透過率よりも高いのです。だからわれわれの目には落葉樹林の方がはるかに明るい。しかし、林床に達する光合成に有効な光(波長700 nm から400 nmまでの赤橙黄緑青藍紫)全体について考えると、葉の透過光の成分は意外と少なく、葉の隙間から射し込む空からの散乱光や、ときおり射し込む太陽からの直達光の方が重要です。暗く見える照葉樹林の林床でも、後者の2成分は意外に多く、林床の植物の光合成・成長を可能にしています。ただし、フィトクロムの反応に重要な遠赤光(730 nm)は葉をよく透過し透過率は50%にも達しますので、透過光の成分もかなり多くなります。
もっとも、最近、シカの食害により林床の植生が貧弱になり、これが表土流出の原因となっているという指摘もあるようです。東京農工大学の調査結果(www.jsece.or.jp/event/conf/abstruct/2011/pdf/T3-06.pdf)などをご覧下さい。
なお、この回答は、東大日光植物園長・舘野正樹さんが昨年(2014年)出版された「日本の樹木」ちくま新書(本体価格880円)を、大いに参考にして書きました。樹木の性質がわかりやすく解説してある、大変読みやすい本です。ご一読をおすすめします。
寺島 一郎(東京大学)
みんなのひろばへのご質問有り難うございました。頂いたご質問の回答を東京大学の寺島一郎先生にお願い致しました所、以下の様な回答をお寄せ下さいました。参考文献の紹介もありますので、しっかり勉強して下さい。
【寺島先生のご回答】
人工林では、一般に遺伝的な性質の揃った稚樹を同時に植えます。間伐をしないと、個体間の光を巡る競争が激化します。なまじ齢と遺伝的な性質が揃っているために、競争にはなかなか決着がつきません。競争に負けそうな個体もひょろひょろと伸び、高さだけは勝者についていこうとします。こうした理由で、林全体で樹冠の高さが同じで、そこにびっしりと各個体の葉が詰め込まれます。林床は真っ暗になってしまいます。
ついでにいうと、ひょろひょろと伸びた負けそうな個体は、力学的な強さを犠牲にして高さを稼いでいますから、座屈しやすい(へたりこみやすい)状態です。大雪などで簡単に座屈します。また、台風などで数本の個体が同時に倒れると(あるいは数本を伐採してもいいのですが)、そのまわりの個体も倒れてしまうほどです。人工林に適当な間伐が必要な理由はここにあります。
しかし、天然林ではこういうことは起こりません。天然林では、同種の個体といえども、発芽の時期が揃う事はまれですし、遺伝的にも多様性があります。ましてや、森には多くの性質の異なる種が共存しています。高さを巡る競争の勝負は簡単に決まり、被陰された個体はひょろひょろと伸びずにじっと耐えるか、枯死するかです。こうしたメリハリがあるので、林床が真っ暗になることはありません。
照葉樹林の林床は、たしかに落葉樹林の林床よりも暗いことが多いのですが、われわれの印象はそれほどあてになりません。なぜならば、われわれの目は緑色光に対して最も感度がよいからです。一般に、落葉樹の葉の方が照葉樹の葉よりも薄く、面積あたりのクロロフィル量も少ないようです。このため、落葉樹の葉の緑色光の透過率は照葉樹の葉の透過率よりも高いのです。だからわれわれの目には落葉樹林の方がはるかに明るい。しかし、林床に達する光合成に有効な光(波長700 nm から400 nmまでの赤橙黄緑青藍紫)全体について考えると、葉の透過光の成分は意外と少なく、葉の隙間から射し込む空からの散乱光や、ときおり射し込む太陽からの直達光の方が重要です。暗く見える照葉樹林の林床でも、後者の2成分は意外に多く、林床の植物の光合成・成長を可能にしています。ただし、フィトクロムの反応に重要な遠赤光(730 nm)は葉をよく透過し透過率は50%にも達しますので、透過光の成分もかなり多くなります。
もっとも、最近、シカの食害により林床の植生が貧弱になり、これが表土流出の原因となっているという指摘もあるようです。東京農工大学の調査結果(www.jsece.or.jp/event/conf/abstruct/2011/pdf/T3-06.pdf)などをご覧下さい。
なお、この回答は、東大日光植物園長・舘野正樹さんが昨年(2014年)出版された「日本の樹木」ちくま新書(本体価格880円)を、大いに参考にして書きました。樹木の性質がわかりやすく解説してある、大変読みやすい本です。ご一読をおすすめします。
寺島 一郎(東京大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2015-09-16
柴岡 弘郎
回答日:2015-09-16