一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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照葉樹林と落葉樹林について

質問者:   一般   クリコナラ
登録番号1043   登録日:2006-09-11
植生区分でどうしても気になることがあるんですが、ジョージアやルイジアナ、テキサスやアラバマなど日本でいうところの九州から沖縄くらいの気候の場所にオークの落葉樹林が発達するのはなぜですか。
別にそんなに乾燥するような場所でもなく、むしろ高温多湿なのにフロリダまでいかないと照葉樹林がないというのは不思議でたまりません。
クリコナラさま

 みんなの広場へのご質問ありがとうございました。回答が遅くなってしまい申し訳ございませんでした。最初にお願いした先生から回答が頂けず、その先生から推薦して頂いた生理学会の会員でない先生にお願いしていたことが理由ですが、推薦して頂いた東京大学の大沢雅彦先生から詳しい回答が頂けましたので、お送りいたします。

大沢先生の回答
お問い合わせの件、以下のようになりますが、簡単にまとめると、火事、砂質土壌のためですが、一部冬の低温、分布障壁なども同時に効いて、照葉樹林が出来ず、かわりにマツ林などが成立しているといえます。

1、確かに温度的には日本の照葉樹林の領域と同じです。しかし、アメリカでは、フロリダ半島にかかる地域を除くと、ほとんどはマツ林、マツーナラ林などになっています。NJなどのpine-barrensとよばれる広大なマツを主体とする低木林が広がっているところも多く残っています。

2、主たる理由は、土壌、火事です。内陸のアパラチアの有名な滝線から大西洋岸にかけての海岸平野は保水性が悪く、栄養塩の吸着も悪い砂質土壌になっているので、マツ林しか出来ません。砂質土壌の平坦地は、逆にごく小さな土地の起伏でも乾燥と過湿が共存しているので、乾燥する砂地はマツーナラ林、数mそこそこの凹地でも後背湿地のようになり湿地や沼地でヌマスギなどの落葉針葉樹林林が成立します。そこには常緑のbay-treeと総称されるクスノキ科、あるいはモチノキ科などの常緑も混生しますが、いずれも低木性です。貧栄養のためです。

3、火事はアメリカ先住民のころから、狩猟のために火を放つてきたなどとも言われますが、日本の瀬戸内地方や春のフェーン現象のときのように、この緯度帯では、少し乾燥すると自然の火災もよく発生します。プレーリに続く乾燥し易い上に、雷による火災も日本とは比べ物にならない頻度です。その結果fire-climaxとしてのマツ林が広く発達しています。

4、一部のアメリカの研究者は、冬場の最低気温がときにかなり厳しいという人もいます。寒冷な北米大陸内陸部から噴出す寒風がさえぎるものがないので、常緑樹が生育できないという人もいます。中国の沿海部から少し入ると、同じように落葉樹林になり、日本のような照葉樹林は長江以南にならないとみられないのも同じような理由です。

5、日本は東南アジアの熱帯常緑林から多くの要素が入ってきていますが、北米では中米からメキシコまでは熱帯型常緑樹林が良く発達していますが、メキシコの砂漠地帯を越えてアメリカに分布できないという生物地理学的な分布障壁も効いています。

大澤 雅彦(東京大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2006-09-19
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