一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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水耕ほうれん草

質問者:   一般   農業見習い
登録番号1205   登録日:2007-03-05
一般的にほうれん草は、「アルカリ性」で生育すると聞きます。
しかし、水耕のほうれん草に限っては「酸性」で育つと聞きました。
どういうメカニズムで、何故そうなるのでしょうか?
また品質的にもなにか変わってくるのでしょうか?
(例えば、シュウ酸が少なくなるなど・・・)
逆に水耕栽培で「アルカリ性」で生育させると、育ちが悪くなるのでしょうか?よろしくお願いします。
農業見習い さま

ホウレンソウの生育に対する、土壌、水耕培養液の酸性-アルカリ性のレベル(これはpH(0~14)で表しますが、低いほど酸性、中性で7、高いほどアルカリ性)の影響についてのご質問ですが、植物による無機養分の吸収について詳しく研究されておられる、岡山大学・資源生物科学研究所、馬 建鋒 教授にお尋ねいたしました。次のような回答を頂きましたので、これからの栽培の参考にして下さい。

ホウレンソウはアジア西部の降水量の少ない地方が原産地であると考えられています。雨が少ないと土壌にはカルシウムなどカチオンが保持されているため、土壌は酸性にならずアルカリ性に保たれています。ホウレンソウは原産地の土壌環境でよく生育できますが、日本のように降水量が多く、そのため一般的に酸性土壌であるところでは、普通、土壌に石灰を施用し、酸性土壌を中和してからでないと、良好に生育しません。

ではなぜホウレンソウは酸性土壌では生育しにくいのでしょうか? これまでの私たちの研究から、これは酸性土壌では土壌に含まれているアルミニウムが一部溶けた状態となり、ホウレンソウの根の伸長を阻害し、その結果、養分や水分の吸収が悪くなるためと思われます。一部の植物(チャなど)はアルミニウムが生育に有益ですが、大部分の植物にとってアルミニウムは毒性(生育阻害作用)があり、ホウレンソウも酸性土壌ではアルミニウムによる毒性のため生育が抑制されます。日本の土壌で石灰を施用しなくてもよく生育する作物、植物はたくさんありますが、これがどうしてアルミニウムの毒性を回避しているかについて、私たちは研究を行っております。一例をあげると、一部の植物は根から有機酸(クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸)を分泌して、根の外でアルミニウムと結合することによって有毒なアルミニウムを無毒化する機構をもっています。

水耕栽培の場合には土壌がありませんので、酸性によるアルミニウム毒性を受けないため、培養液のpHは問題ないと思われるかもれませんが、しかし、原産地での性質を引き継いでいるためか、ホウレンソウはアルミニウムに弱いだけではなく、酸性(低いpH)にも弱い性質をもっています。pH 6.5から7.0あたりがホウレンソウの生育に適したpHではないかと思います。あまりアルカリ性側になると、鉄欠乏などの問題が起こるので、生育だけではなく、品質(見た目)にも影響します。培養液のpHそのものはホウレンソウの品質に対しあまり影響はないと考えられます。与える窒素の形態によってシュウ酸の集積量が異なることはあります。培養液の窒素をアンモニウム形態で与えたほうが硝酸態で与えたのよりホウレンソウのシュウ酸の濃度は低くなったとの報告があります。

馬 建鋒(岡山大学・資源生物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2007-03-14
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