一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物の二酸化炭素に対する耐性

質問者:   一般   加藤ときよ
登録番号2167   登録日:2010-04-01
工場などで出る二酸化炭素をビニールハウスの中に導いて植物を生育させるとどのような害が出るのでしょうか。高濃度の二酸化炭素の中で生育できるような耐性の植物を作りだすことは不可能なのでしょうか。もしそのような植物を作り出せたとして、植物の光合成能の最大値は最適条件では量子収率と同じにできるでしょうか。
加藤ときよ 様

ご質問をありがとうございました。
工場で石油などを燃やす際に生ずる二酸化炭素を植物の生育に利用し、“一挙両得”をねらおうと言う訳ですね。
ハワイ島のマウナロアで観測されている大気中の二酸化炭素濃度は、現在、約390ppmであると報道されています。この濃度条件下では、多くの植物の場合、光合成の速度は二酸化炭素濃度律速の状態になっていると考えられます(但し、実際には、生育環境によって事情は大きく異なっております)。従って、二酸化炭素濃度の増加は光合成速度を増加させ、結果として植物の生長を促進することが期待されます。しかし、二酸化炭素がある程度以上に高濃度になると、光合成の速度は二酸化炭素以外の他の外的なの要因(例えば、温度やリン酸などの無機栄養の供給など)や内的な要因(二酸化炭素受容体の再生産など)によって律速されるようになり、二酸化炭素濃度の増加は光合成速度の増加につながらなくなります(光合成の二酸化炭素濃度飽和)。一方、二酸化炭素が高濃度に存在することは植物にとって害となる場合が考えられます。 “昼夜の区別なく”高濃度の二酸化炭素にさらされると、植物の呼吸が阻害され、深刻な問題が引き起こされるかも知れません。また、二酸化炭素濃度の増加によって二次的な害(例えば、細胞質の酸性化など)が起こることも考えられます。植物を改良して、より高い濃度の二酸化炭素濃度に耐性を備えた植物を創りだすことは一案ですが、本質的なことは、高効率で二酸化炭素を同化できるようにすることにあるものと思います。

ところで、“量子収率”とは、吸収された「光量子」のモル数に対する「反応した分子(例えば、固定された二酸化炭素の分子)」のモル数の比率を意味することになりますが、この値を最大に高めることは、前述のように、二酸化炭素の濃度を増加させるだけでは達成できないことは明らかです。

また、提案されている方法で少し気になるのは、工場から出るガスが二酸化炭素以外に、植物にとって有害な物質を含んでいるのではないか言う点です(勿論、これは工場で使われる燃料の純度や燃焼過程に依存しますが)。

以上、やや一般的な回答になりました。もし、高濃度の二酸化炭素による植物の生育阻害について具体的なことをお知りになりたいようでしたら、再度、質問をお寄せ下さい。なお、“光合成能の最大値は最適条件では量子収率と同じに”との表現が良く理解できませんでした。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2010-04-12
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