一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ギンリョウソウを緑に

質問者:   会社員   タクオ
登録番号2620   登録日:2012-03-29
植物生理に興味がありいつも拝見しています。3/15トピック掲載の「白い根を緑に」をみて考えたことは葉緑素を持たないギンリョウソウを緑にできるのでしょうか?さらにギンリョウソウを検索したところ「肥料だけで植物は成長するのか」を見て考えたことはギンリョウソウは根から吸収した糖を原料にデンプンを合成しているのでしょうか?一般の緑色植物でも光合成にたよらず、根から糖を吸収してデンプンを合成可能と考えてもいいものでしょうか?
タクオ様

 みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を色素体分化の問題に詳しい熊本大学の高野博嘉先生にお願い致しました所、以下のような回答をお寄せ下さいました。ご満足頂けると思います。



【高野先生からのご回答】
 最初の質問である、ギンリョウソウを緑にできるか、という質問ですが、まずできないだろう、というのが答えです。「植物の根を緑にすることができた」という研究のニュースを読んで頂くとわかるかと思いますが、この研究は、「通常、色素体が葉緑体へと分化しないように抑制されている植物の根において、葉緑体の分化を誘導し、緑にすることができた」という報告です。実験に用いているシロイヌナズナは、葉であれば色素体から葉緑体へと分化がなされ、緑になります。つまり、葉緑体を分化させる能力(遺伝子群)を持っている植物を用い、それを抑制している根で分化抑制を解除できた、という研究なのです。では、ギンリョウソウはどうでしょう。このような腐生植物が葉緑体をつくることができる遺伝子を持っているか、という観点で考えます。ギンリョウソウ自体のデータはないのですが、近縁のギンリョウソウモドキでは光合成に関連する遺伝子がいくつも既に存在しない、ということがわかっています。このことから、これらの生き物では、緑になるための遺伝子自体が完全でなく、研究ニュースで明らかになった遺伝子によっても、地上部を緑にすることはできないだろう、ということが推測できます。

 二つ目の質問である、デンプン合成の話に移ります。葉緑体を分化させていない植物の培養細胞を用いた実験から、葉緑体を持たないような細胞でも培地中から吸収した糖分でデンプンを合成可能であることはわかっています。ただし、一般の植物が根から糖分を大量に吸収できるような環境は普通存在しませんので、この方法は一般的ではなく、やはり光合成の産物である糖からデンプンは合成しているはずです。ギンリョウソウについては正確にはわかっていませんが、近縁のPityopus californicusという植物では種にデンプンが存在していることがわかっており、寄生している菌類から得た栄養からデンプンを作っている可能性があります。

高野 博嘉(熊本大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2012-04-15
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