一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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吸水量と蒸散量

質問者:   一般   ゆう
登録番号3509   登録日:2016-06-18
 中学生の娘に質問されて困っております。
 ワセリンをぬった葉からの蒸散量を計算させる問題で、問題文中にはなんの説明もなく「吸水量=蒸散量」が当然のように考えることが前提となっています。吸水された水のうち、光合成に使われる水の量は考える必要がないのでしょうか。また、呼吸によって生成される水の量も考える必要はないのでしょうか。
 どうかよろしくお願いいたします。
ゆう 様

ご質問をありがとうございます。歓迎いたします。
以下に回答いたします。

植物の体内の離れた場所へ水が移動するときには、木部にある道管(あるい仮道管)を通ります。道管は一列の道管細胞の細胞と細胞の接するところの細胞壁に穴があいたり、完全に消失したりして細長い管になったものです。細胞の核や細胞質が失われておりますので、細胞壁でできた管という見方もできます。この管には水を移動する力はありません。

道管の中の水の移動の原動力としては、根圧によるものと、蒸散によるものがあります。根圧はエネルギーを使って、無機塩を道管細胞内に取り込むと浸透圧が高まり、水が外から流入します。これが、道管内の水を押し上げる力を生じます。この力を根圧といいます。へちま水をとるために地表近くで茎を切断した時に、切断面から水溶液があふれでてくるのは、根圧によるものです。しかし、蒸散が起きているときには、水の移動がおきて取り込んだ無機塩の蓄積がおこりませんので、根圧は働きません。

葉の表面から(90%以上は気孔から)水が蒸散によって大気中に出ていくときには大きな負圧が生じます。負圧というのは、吸引する力のようなものです。その力は葉肉細胞・間隙、葉の道管、茎の道管、根の道管と伝わり外からの道管内への吸水力になります。
蒸散による負圧は非常に大きく、高さ80mの木まで道管を通って水をすいあげるのに十分であることが知られています。また、葉の道管から根の道管までつながっている道管内の水柱は、水の凝集力により切れることなく引き上げられることもわかっています。

このようにして、道管内を通って葉に到達した水は葉肉細胞・間隙を経て主として気孔から大気中に放出されますが、葉肉細胞の中では、光合成反応における水素の供給源になるなど生命活動に欠かせない化学反応に用いられたリ、葉の細胞が大きくなるときにおきる吸水のために用いられたりします。これらのために用いられる水は、取り込んだ水のそれぞれ0.1、および1%程度と言われています。すなわち、取り込んだ水の約99%は道管を通り抜けて大気中に放出されるということになります。

ご質問で指摘されておられますように、厳密に言うと光合成や呼吸のことを考えないといけないと思いますが、その割合が蒸散量に比べて無視できるくらい小さいということで、中学生のレベルでは吸水力=蒸散量としているのではないかと思います。

しかし、与えられた関係を機械的に使って問題をとけばよいという態度ではなく、植物体内でおきるさまざまなことにまで思いを巡らされたということは、素晴らしいと思いました。感心しました。
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2016-06-22
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