一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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クロロフィルの分解について 登録番号の3434 に関し

質問者:   一般   okb
登録番号3650   登録日:2016-12-05
森林インストラクターとして、紅葉の仕組みをわかりやすく
かつ最新の情報を広めたいと思っています。

登録番号3434の解答によれば落葉の前に「クロロフィルは分解されて、液胞にためられる」
とのことですが、
 クロロフィルは細胞内小器官である葉緑体(クロロブラスト)に多く含まれる物質と理解しています。
であるならば、クロロフィルの分解とは
 1.細胞内の葉緑体がクロロフィルを持たなくなること
 2.葉緑体自体が分解されること
 3.葉緑体を含む細胞自体が分解されること
のどれなのでしょうか?

Okbさん

このコーナーをご利用くださりありがとうございます。
ご質問にはクロロフィル代謝系の解明にとり組まれている田中 歩先生(北海道大学)から回答文を頂戴しましたので、ご参考になさってください。

【田中先生からの回答】
クロロフィルの分解とは、直接的には葉緑体に存在するクロロフィルが分解され、その分解産物が最終的に液胞に運ばれることを指しています。すなわち、質問の項目1がクロロフィルの分解にあたります。しかし一方で、クロロフィルの分解は細胞や葉緑体の変化を伴いますので、今回はクロロフィルの分解過程を少し広い視点から考えてみたいと思います。

クロロフィルは植物の葉の中ではタンパク質に会合し、光化学系と呼ばれる大きな複合体を形成しています。光化学系Iや光化学系IIと呼ばれているものです。これらの光化学系はチラコイド膜と呼ばれる脂質膜に存在し、このチラコイド膜はさらに包膜に囲まれて葉緑体が作られています。さて、植物が老化の時期に入ると、まずクロロフィルの分解酵素が誘導されます。その中でも特にMg-脱離酵素と呼ばれるものがクロロフィル分解の調節的な役割を担っています。この酵素が作られると、光化学系に存在するクロロフィルから、その分子の中心に存在するマグネシウム(Mg)が引き抜かれます。この反応でクロロフィルはフェオフィチン(Mgが引き抜かれたクロロフィル)に転換されて光化学系から遊離し、最終的に水溶性の分解産物となって葉緑体から液胞に移動していきます。この反応が進むと葉緑体のクロロフィルは次第に減少し、クロロフィルを失った光化学系のタンパク質も分解されます。その結果、先ほど述べたチラコイド膜も減少し、葉緑体の内部構造がなくなり、最終的には葉緑体そのものも分解されてしまいます。もちろん老化の最終段階では細胞自体も死んでしまいます。興味深いことにMg-脱離酵素の遺伝子を欠損する植物はクロロフィルを分解できず、葉緑体の構造も長く維持されます。初期のクロロフィル分解が起こらなければ、その後の老化も進行しないのです。このようにクロロフィルの分解を最初の引き金として、葉緑体や細胞の様々な現象が引き起こされますので、質問の3つの項目はすべて正しいとも言えます。

ちょっと蛇足になりますが、メンデルが遺伝学の研究に使った緑豆は、このMg-脱離酵素が欠損し、クロロフィルが分解できなくなった突然変異株でした。

 田中 歩(北海道大学低温科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2017-02-13
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