一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ATP1分子の合成に必要なH+数について

質問者:   高校生   RdRp
登録番号3696   登録日:2017-02-25
こんにちは。光リン酸化におけるATP1分子の合成に必要なH+数についていくつかの本で異なる記述があり、解釈に迷っています。
具体的には1ATPにH+3分子(ヴォート生化学)というものとH+4分子(テイツザイガー植物生理学・キャンベル生物学(呼吸))というものがあります。F型ATPaseのH+-ATP比はサブユニット数で決まるということから、種によって違うのかとも思いましたが、前者では光合成において6CO2を固定するとき、カルビン回路で消費されるのは12NADPH,(12+6)=18ATPですが、12NADPHの生成に必要な光化学系で分解されるH2Oは12分子で、電子伝達の際にH2Oあたり4+のルーメン組み入れが起こることを考えると、(12×2+4×12)/3=24ATPとなり、6分子ATPが過剰になると思います。これは後者(きっちり12H2Oで18ATP)と比べるとATP/ADP比を大幅に上げることとなり、問題となると思われます。
結局のところ、ATP1分子の合成に必要なH+数は3なのでしょうか、4なのでしょうか?それとも種によってF型ATPaseサブユニット数に応じた代謝制御が働いているのでしょうか?
RdRp 様

このコーナーをご利用くださりありがとうございます。
重要な数値について教科書によって記述に食い違いがある場合には、もし可能であれば、それぞれの論拠となっているオリジナルな文献を辿るよう努められることをお勧めします。

ところで、葉緑体のATP合成酵素複合体(CF0CF1)について、人工的な膜リポソームを用いた実験により、膜(CF0)を介したH+の輸送とATPの合成との間の化学量論比が見積もられ、ホウレンソウについて「4」の値が報告されています(下記の文献参照)。文献2には、また、酵母のF0F1についての値が示されています(CF0CF1と同一条件での測定)。複合体の構造の解明が進んでいる現状においては、CF0上のH+結合部位(c-サブユニット)とCF1上のヌクレオチド結合部位(β-サブユニット)の数を基に、H+とATPの比率が議論されることがあるようです。

(参考文献)
1)Paola Turina, Jan Petersen & Peter Gräber (2016) Thermodynamics of proton transport coupled ATP synthesis. Biochim. Biophys. Acta 1857: 653-664.
2)Jan Peterson et al. (2012) Comparison of the H+/ATP ratios of the H+-ATP synthases from yeast and from chloroplast. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109: 11150-11155.

JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2017-02-27
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