一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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トマトのヤニ

質問者:   会社員   ねね
登録番号3829   登録日:2017-07-27
自宅でトマトを栽培していますが
葉や茎を触ると手が黄色くなります。
特に、汚れた後の手を石鹸で洗うと鮮明な黄色になります。
この成分はなんなのでしょうか。
ちなみに、農薬等は一切使用していません。


どうぞよろしくお願いいたします。
ねね様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。面白いことに気がつきましたね。私はトマトを栽培したことがないので知りませんでした。そこで色々調べてみたところ、外国でもあなたと全く同じ疑問についての記事をいくつか見つけました(例えば、Q&As on everyday science from New Scienctists Blogs, 27, August 2008; Market Farming News Sep.29, 2010)。 また、この問題については最近でもいくつかの関連する研究論文が出ています。ここでは、それらの報告を踏まえて、説明することにします。
植物は茎や葉などの表皮がトライコーム(トリコーム、毛状突起)と呼ばれる毛で覆われていることが多いです。(トライコームの一般的な説明については登録番号2283 を読んでください。)一部のトライコームは腺状トライコームで各種の分泌物を出します。ラベンダー、ミント、スイートバジル、タイムなどの香気成分もそういう分泌物です。これらの物質の役割は病原菌や昆虫からの攻撃を防ぐためだと言われています。トマト、ナス、ジャガイモなどの属するナス科の植物のトライコームには8つの異なるタイプがあり、そのうちの4つ(TypeI, IV; Type IV, VII )が分泌物を出す腺状トライコームです。詳しいことは省略しますが、栽培トマトと野生トマトの腺状トライコームに関する2015年に発表されたある研究論文によると(BMC Plant Biology 15: 2890)、多細胞のトライコームが表皮細胞からできてくる場合、最初にできた初期のトライコーム細胞内にははっきりとした小胞があって、そこに強い黄緑の自家蛍光を発する物質が蓄積される。しかし、細胞分裂が進んでトライコーム完成するにしたがって漸次減少し、成熟段階では完全に消滅する。この自家蛍光を発する物質はそのスペクトルの解析からフラボノイド系の化合物だと思われるが、フラボノイド自体はほとんど自家蛍光を示さないので、これは何か未知のフラボノイド誘導体であろうと結論しています。これまで報告されている強い自家蛍光を示すフラボノイドの誘導体は全て、フラボノイド分子構造の骨格部分での5の位置に別の分子がが結合した形を取っているそうです。(フラボノイドについてはnetで検索していただければ、いろいろと情報が得られます。)そして、トマトの場合はこれらの別の分子は糖(主にグルコースやシヨ糖)あるいはメチル基(-CH3)だろうと推測しています。別の研究(International Journal of Molecukar Sciense 2012; 13: 17077)は、Type 1の腺状トライコームが分泌する物質はほとんどアシル化グルコースだと報じています。フラボノイドもアシル基の一つとなりえますからアシル化グルコースのアシル基がフラボノイドであってもおかしくありません。従って、トマトのトライコームから分泌される蛍光を発する物質はこれかもしれませんが、さらなる分析が必要でしょう。ちなみに、アシル化糖はそれ自体昆虫などには有毒なばかりでなく、粘着性によって昆虫を動けなくする働きもあるようです。トマトでは植物体の腺状トライコームの密度とアシル化糖の含量はハダニやコナジラミへの抵抗性の度合いと正の相関があると報告されています。さらに、フラボノイドは紫外線予防に役立っていることが明らかとなってます。
以上化学的詳細には触れないで大雑把に説明しましたが、黄緑の蛍光物質の正体はだいたいお分かりになったかと思います。石鹸で洗うと鮮明な色になるのはこの物質がpH試薬のように酸性・アルカリ性で変色することを示していると思います。酢で洗ったらどうなるか試してみてください。また、なかなか除去できないのは、アシル化糖の性質によるのかもしれません。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2017-08-02
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