一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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どういう仕組みで胞子嚢が破裂するのですか

質問者:   高校生   akua
登録番号3932   登録日:2017-10-10
中学校の理科で、シダ植物を加熱して胞子嚢を破裂させる、という内容を教科書で読んだのですが、なぜ加熱、乾燥させると胞子嚢が破裂するのでしょうか。
加熱することで胞子嚢内の空気が膨張すると考えていたんですが、自然界ではそのように加熱できないと思ったので質問しました。
akua さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

シダ植物の胞子は胞子嚢と呼ばれる袋の中に多数出来ることはご存じだと思います。
一般的にシダ植物の胞子嚢は短い柄の先端に形成されるやや扁平な球状の袋で、扁平球の稜に当たるところは一列の特殊な形の細胞で出来ています。これを環帯と言いますが、環帯細胞の内側(袋側)の細胞壁は厚く、外側の細胞壁は薄く出来ています。胞子が十分に成熟すると胞子嚢の細胞は死んで乾燥し始めます。環帯の細胞が乾燥すると外側の細胞壁は薄いのでより大きく収縮しますが、内側の細胞壁は厚く収縮が少ないので、結果として環帯は外側へ反り返ることになり、胞子嚢の側壁に引っ張る力が働きます。これが進むと胞子嚢の側壁が割れカップ状になって環帯の一端につく形になります。胞子嚢の中の胞子は露出します。カップを付けた環帯はさらに反り返ってある限界にたっすると環帯が急速に元の形に戻ります。そのためカップ状の胞子嚢の中にあった胞子群は投げ出されます。台所で使用するオタマジャクシの中にマメを煎れて壁に向かって振るとマメが飛び出し壁に当たる様子、あるいは旧式のピッチングマシーンで球(沢山の球が同時に)が投げ出される様子を想像してください。胞子群はまだ多数がかたまって近くの葉などに付着しますが、そこでさらに乾燥が進むと胞子がばらばらになって風に飛ばされたり、小昆虫に付着したりして散布されることになります。反り返った環帯が急速に元に戻る仕組みははっきりしませんが、恐らく外側の細胞壁(薄い)が破れて内側細胞壁にかかっていたストレスが一気に解放されるためと予想します。

「加熱して胞子嚢を破裂させる」との表現は適当とは思えません。胞子嚢は「割れる、破れる」ので「破裂」と言っても良いかも知れませんが、内圧が加わって割れるのではなく、引っ張られて2つに割れ、「中身を投げ飛ばす」といった方が良さそうです。加熱はこの場合乾燥を促す意味がありますが、胞子嚢が成熟して側壁の細胞が死んで細胞の接着が弱まっていることが条件になります。そこに環帯が反り返る力がかかって胞子嚢の偏球体が割れる、次に環帯のストレス解放によって振られ中の胞子が投げ出される、といった仕組みと考えてください。若い未熟の胞子嚢では強制的に乾燥しても側壁細胞の接着は強く残っていますので割れることはありません。

今関 英雅(SPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2017-11-27
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