一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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砂糖をかけたイチゴの脱水の仕組み

質問者:   会社員   おおしま
登録番号4102   登録日:2018-05-13
はじめまして。
昨日、娘といちごジャムを自宅で作った際に気になった点があるので、質問させてください。

イチゴジャムに砂糖をかけ、24時間ほどおいたところ、イチゴの色素を含んだ水分がでてきたのですが、浸透圧による脱水の仕組みを詳しく教えていただきたいです。

気になっている点は
①砂糖をかけただけでペクチンは溶出されるか
 (ペクチンを抽出するには酸が必要と聞いたことがあります)
②イチゴの色素は細胞膜から通り抜けることができるのか
③脱水された後の細胞壁はへしゃぐのか
 (高張液につけると原形質分離がおきますが、脱水されたイチゴは細胞壁もへしゃげているのでは!?と思うほどへしゃげていました)

です。
よろしくお願いします。

おおしま様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。イチゴのジャムをお作りですか。私もジャム作りが好きで、いろいろな材料でジャムを作ります。一番好きなのはルバーブです。ルビーのように美しく透き通った色のジャムができたときは楽しいです。
さて、ご質問の件ですが、「ジャムに砂糖をかけて」という操作は、多分「ジャムを作るためにイチゴに砂糖をかけて」ということだと思いますので、そう理解してお答えします。
ご存知かもしれませんが、まず、イチゴという果実の特徴を簡単に説明しておきます。ふつうの一般のくだものは花の雌しべの下部にある子房が肥大してできますが、イチゴは花の「花托」と呼ばれる花冠を支えているお皿のような部分が肥大したものですのです。生物学的には「偽果」と呼んでいます。私たちがイチゴの表面についている「たね」と呼んでいるものの一つ一つが真の「果実」です。専門用語では「痩果(ソウカ)」と言って、種皮と果皮がくっついてしまったものです。タンポポ、ヨモギ、ヒマワリ、オミナエシ、イヌタデなど多くの植物で見られます。多くのくだものは成熟すると、香り/色が生じて、多くは糖度が増して、組織(果肉)は軟化していきます。これらの過程にはエチレンなどの植物ホルモンんの働きが関与しています。
(参考:登録番号1395,1572,1668,3008,3484,3505,3812)

①砂糖をかけただけでペクチンは溶出されるか:②イチゴの色素は細胞膜から通り抜けることができるのか
くだものにおける軟化は細胞壁の変化(分解)が関係しています。登録番号3505を読んでください。ペクチンは細胞壁構成要素の一つですが、セルロースなどに結合している水不溶性ペクチンと水溶性ペクチンがあります。くだものは熟すに従って不溶性ペクチンが減少し、水溶性ペクチンの増加が見られます。イチゴで調べられた研究ではイチゴの成熟に従ってペクチンの含有率も減少し、特に、塩酸可溶性ペクチjン(セルロース結合)は大きく低下します。さて、植物の細胞は一番外側は細胞壁、その内側に半透性の性質を持つ細胞膜があります。細胞膜に囲まれた内部は細胞質で各種の細胞器官・液胞などがあります。液胞内は大部分が水で、これにミネラル、糖、有機酸、アントシアニンなどの色素のほかに酵素も含まれています。細胞が生きている間はこれらの構造はきちんと保たれていますが、細胞が死ぬと、細胞膜も細胞器官もインテグリティを失って崩壊します。従って、細胞壁の一番外側がクチクラ層のようなワックス状のもので覆われているのでなければ、細胞質は細胞外へ容易に溶出されることになります。ペクチンは細胞壁にしか含まれていませんので、水溶性のペクチンは植物組織(クチクラなどで覆われていない場合)を水に浸して置く(あるいは適度に震とうする)と滲出してきます。砂糖(塩でも同じ)をかけると特にペクチンが溶出されてくるわけではなくて、浸透圧差により細胞内から細胞外へ吸い出される水が細胞壁を通過するときそこに含まれる水溶性ペクチンを溶出すると思います。細胞が崩壊していると、液胞内の物質はアントシアニンのような色素も含めて局所的な分布はなくなり、水溶性の物質は組織を水に浸しておくと水に移ってくることになります。成熟したイチゴの細胞し、は柔らかいので(細胞壁を固く保っているペクチンに変化が生じるー上述)、傷つきやすく、何らかの機械的刺激などで壊れた細胞ができれば、アントシアニンは滲み出てくるでしょうが、もし 完全に健全な細胞だけだったら、浸透圧差だけでアントシアニンが液胞から出て細胞膜を通過することはないでしょう。

③脱水された後の細胞壁はへしゃぐのか
細胞壁がヘシャグというのはどういうことをおっしゃっているのか分かりませんが、細胞壁のマトリックスも水が充填していますので、遠心分離でそれを除去するとか、何かの方法で搾り取るとかすればヘシャグのかもしれません。しかし、細胞壁だけを分離して調べてみないと正確なことは言えません。残念ながらそのような研究論文は見つかりませんでした。ただ、成熟したイチゴでは細胞壁が柔らかくなっていますので、硬いイチゴを脱水した時よりふにゃふにゃになっているのではないでしょうか。また、草本植物の組織ではふつう構成細胞が十分に吸水していると、膨圧によってシャキット保たれていますが、水を失うと膨圧がなくなり、いわゆる萎れた状態になります。高張液中でイチゴ全体の水分が失われる場合も同じです。このような場合個々の細胞の細胞壁がへシャイだことが萎れの原因ではありません。ただ、細胞壁は、特に若い細胞の細胞壁は伸展性に富んでおり、細胞内の膨圧が高い時は伸びきっていますが、膨圧が低下すると縮みます、もちろんミクロのレベルですが。そういう状態をヘシャグというのなら、答えは yes です。

勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-05-16
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