一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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葉が対生の植物と羽状複葉の植物の進化について

質問者:   一般   レーウェンフック2世
登録番号4186   登録日:2018-08-04
研究の合間に気分転換に植物のスケッチを趣味として20年になります。しかし、いまだ、観察しても、葉が対生か羽状複葉なのか区別がつきません。そのような植物素人の私ですが、疑問に思うのは、なぜ、そのような、似たような形態の違う葉が植物進化の過程で現れたか?ということです。羽状複葉は、もともとは1つの大きな葉が、対生のような葉の形態をしているとのことですが、それは進化の過程で、氷河期から暖かくなるにつれ、葉で作られる花成ホルモンのフロリゲンの合成量を減して花期を変化させるため全体の葉の部分が減った???あるいは、気孔からの水の蒸散を減らすために全体の葉の部分が減った???
レーウェンフック2世さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
東京大学 大学院理学系研究科 植物生態学の寺島一郎先生に複葉の生態的意義について伺った解説を中心にお答えします。

「葉が対生か羽状複葉なのか区別がつきません」:
簡単な見分け方は、葉(葉柄)の基部(茎との分岐点)に腋芽があれば葉です。複葉の小葉基部には腋芽はありませんが、複葉の葉軸の基部には腋芽があります。

複葉の進化についてはいくつかの見解があるようですが、被子植物では単葉から複葉への変化は進化過程のいくつかの段階で独立に進化したと考えられています。ですから現在では、単葉と複葉には分類的相関性がなく、同じ科の中でも単葉、複葉が混在しているものもあります[例えばフウロソウ科のゲンノショウコ(複葉)、テンジクアオイ(通称ゼラニウム、単葉9)]。このような形態の変化は、寺島先生の解説の最後にあるように葉周縁部の細胞分裂の仕方の違いで、近年の研究によれば、いくつかの遺伝子(主に転写因子-他の遺伝子の発現を制御するタンパク質-の遺伝子群)の位置的、時間的発現様相の違いによることが次第に明らかにされつつあります。単葉から複葉への形態的変異は長い年月にわたる複数の遺伝子構造の変化(自然突然変異による)の結果ですが、変異する遺伝子群は同一(同類)とは限らないものです。これら遺伝子変異に基づく葉形態の変化が進化的に残ってきたことはその形態的変化(単葉から複葉への)が自然環境の中での生存に有利な点がなければなりません。これらの有利な点は生態学的にどのようなものか、寺島先生の解説は次の通りです。

複葉の生態学的な意義について
複葉と言ってもいろいろなものがありますが、以下のような見解があります。
1) 大きな一枚の葉ではなくて小さな小葉が集まって一枚の葉となっている点・物体のまわりには空気の淀み(境界層)があります。手をオーブンにそっと入れても火傷をしないのはその境界層があるからです。オーブンの中にファンがあれば火傷してしまいますよね。
この境界層の厚さは、風速(v )と 葉の大きさ(風向にそった長さ、l) について考えると、l/vの平方根 √(l/v)に比例します。 
葉に日光が当たると温まりますが、境界層が厚いと熱がこもりがちです。気孔を開いて蒸散しても水蒸気は拡散しにくくなります。蒸発熱も失われにくくなります。また、CO2も拡散しにくくなります。ですから、大きな葉をもつと、葉が高温になりがちでCO2の拡散も悪く光合成に支障をきたすのです。小さい葉にした方がよい一つの理由は「境界層」が薄くなるからです。一方、高緯度に行くにつれて葉は大きくなる傾向があります。CO2の拡散は犠牲になりますが、葉の温度を光合成の適温に高めるのに役立つという説(Okajima and Terashima 2011)もあります。

・太陽は点光源ではないので、物体の影には本影と半影とがあります。半径10cmの円に太陽光が垂直に当たった場合、太陽の大きさは0.5˚ですから、本影がなくなるのは、10/tan (0.25˚)=2291 cm、すなわち葉から23 mの距離の場所ということになります。このように、大きな葉が上にあるとその下は、本影で暗くなってしまいます。小葉にするとこの距離を短くすることができ、コンパクトな葉群をつくることができます(Horn 1971)。

2)使い捨て、安普請の枝として
・大きな複葉をつくる、タラノキ、センダン、カラスザンショウ などは、明るい場所を好む先駆樹種で成長が速いことが知られています。成長が速いので立派な枝を作っても、すぐに自身の樹冠の影になります。したがって、立派な枝をつくっても無駄になります。この様な樹種の複葉は使い捨ての「枝」の役割をはたしていると解釈できます(Givnish1979)。(立派な枝をつくるための投資を避け、光を求めて上へ伸びることへ投資をまわす)

3)光受容の調節
・マメの仲間の複葉の小葉基部には小葉枕、複葉全体の葉柄の基部には葉枕があります。これらの組織は気孔の開閉とよく似たメカニズムで動き、葉の角度を微妙に調節しています。水分が十分で光合成が十分できる場合には、各小葉を太陽光を垂直に受けるように、水分が少ない場合には太陽光から逃げるように動かします。このように受光量の調節にも小葉を持っている方が便利でしょう(Ehleringer and Forseth 1980)。

・一般のシダ植物の葉も複葉です。小葉とは言わず、羽片、小羽片とよびます。林床などで観察すると、葉全体としては傾きながらも、各羽片や小羽片は水平になっています。横から見ると、まるで階段のようです。これについても論文があるかもしれませんが、筆者は環境研究所の竹中明夫さんから教えてもらいました。

複葉がどのようにして発生するのかに関しても簡単に述べておきましょう。 
葉は、シュートの先端にある先端分裂組織の中心からやや離れた場所の膨らみとして生じ、その突起が大きくなるにしたがって横方向にも拡大し扁平になってきます。扁平になる際には葉の周縁部の細胞が分裂し細胞が供給されます。周縁部がどこでも同じように細胞分裂すると全縁の葉ができます。一方、周縁部のところところでしか細胞分裂がこらないと突起ができてくることになります。この突起の周縁部の細胞がきちんと分裂すると1回複葉、小葉の周縁部がところどころしか分裂しないと、2回・・・複葉となります。


寺島 一郎(東京大学大学院理学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2018-08-13
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