一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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平行脈(イネ)の葉の成長について

質問者:   大学院生   ひろくん
登録番号4188   登録日:2018-08-05
地元の九州に帰った際に、イネがよく育っており以前とは比べ物にならないほど育っていて、驚いていました。
その時にふと気になったのですが、イネのような平行脈を持つ葉の成長過程では、どのような変化が起こるのでしょうか?純粋に歯が大きくなることはわかるのですが、その際に例えば、
①葉脈の本数が増加する。
②葉脈が太くなる。
③葉脈の幅が広くなる。
などが考えられるかと思ったのですが、前回からの記録をとっていなかったためわからず、質問させて頂きました。また、なんらかの特徴がある場合に、それがイネ科だけのものなのか、または平行脈を持つ植物全ての共通の特徴なのかも教えていただけると幸いです。
よろしくお願い致します。
ひろくん様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。大変長くお待たせしました。この質問に対しては、その内容に関係のあるご研究をされている東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 進化遺伝学研究室の平野博之先生に回答をいただきました。大変詳しくまた分かりやすく説明をいただきましたので、これで十分にご理解いただけると思います。

【平野先生の回答】
 ご質問、ありがとうございます。
 田んぼに青々と繁るイネの葉は、日本の風景の一部ですね。イネは単なる食料の源だけでなく、日本文化の象徴だと思います。

◇ 概略
説明が詳しく、長くなってしまいましたので、まず、簡単に質問に答えておきます。葉脈とは、水分や養分の通り道である維管束が外側から見えるようになったものですので、成長に伴う維管束の変化として説明します。

・維管束ができるのは、葉の発生の非常に初期で、できあがった後には、太くなることはありません。

・初期には成長に伴って葉の幅は広くなり、維管束の数も増えます。しかしながら、この過程は、数mmの葉の原基(葉の赤ちゃん)の時期に起こるため、肉眼で見ることはできません。維管束が葉脈として見える頃になると、葉脈の数にはほとんど変化はありません。

◇ 詳しい説明
 ご質問にあるように、イネの葉は平行脈を持っており、この葉脈は3つのタイプに分けることができます。まず、葉の中央部には、中肋(中央脈)という非常に太く強い構造があります。その両脇には、大小2種類の葉脈があります。葉を手にとって見てみれば分かりますが、中央部から縁にかけて、やや太めの葉脈が3-4本あり、その間に細い脈がさらに3-4本ずつ並んでいます。
 葉脈とは、葉の内部に存在する維管束が、他の葉の部分より厚みがあるため、外部から見えるようになったものです。維管束とは、水分や養分の通り道の導管や師管、およびこれらに付随する組織から構成されています。ご質問は、葉脈の数や太さに関することですが、以下では、葉脈=維管束と考えて解説をしていきます。            
 イネには、大きさと構造が異なる大維管束と小維管束いう2つのタイプがあり、やや太めの葉脈の内部には大維管束が、細い葉脈には小維管束が含まれています。これらの大小の維管束は、葉の発生初期にどちらになるかがきまりますので、小維管束が大維管束になることはありません。すなわち、葉脈として葉の外側から認められるようになったら、太さは変わることはありません。
 中肋には、大維管束と小維管束とが何本も含まれており、複雑な構造をしています。葉の先端部は維管束の数が少なく中肋全体も細いのですが、基部(茎に近い方)に行くにしたがって、太くなっていきます。これは、基部では維管束の数が多くなり、それを取り囲む組織全体も大きくなっているためです。イネの葉は、始めに先端ができ徐々に基部向かって成長していきます。ですから、中肋(中央脈)は成長に伴って太くなると言っても良いかもしれません。中肋の両脇にある大小2つの普通の葉脈は、葉の先端側も基部側もほとんど太さは変わりません。イネの葉を見る機会があったら、普通の葉脈の太さは先端と基部で変わらず、中肋だけは太さが違っていることが確認できると思います。

 次に、葉の発生と成長に伴って、維管束(将来の葉脈)の数の変化を詳しく説明しましょう。イネの葉は、他の植物の葉と同様に、1mm以下の小さな葉の原基が成長することによって作られます。まず、1mm以下の葉原基の中で、大維管束が分化し、少しずつ数が増えます。葉原基がもう少し成長すると、大維管束の間に、小維管束の細胞が分化し数を増やしてきます。この過程では、葉原基は徐々に大きくなっていきますので、葉(葉原基)の幅が広くなるとともに維管束の数は増加します。ただし、これらのイベントは、数mm以下の葉の原基の内部で起こっていますので、顕微鏡をつかって、はじめて観察できることで、外部からの観察では葉脈というかたちで維管束を認めることはできません。

 このように微視的に見てみると、将来葉脈を構成する維管束は、葉原基の成長に伴って徐々に増えてきます。葉原基が成長して、数cmのごく若い葉になったころに、始めて葉脈が普通の目で見られるようになります。ただし、イネでは、この時期の若い葉は古い葉で何層にも入れ子状に包まれていますので、その古い葉を取り除いて見なければ、この過程は簡単には観察できません。葉が包まれている部分から外界にでて肉眼で見えるようになってから後は、ほとんど葉脈の数には変化がありません。

 ところで、維管束が増加してきた名残を、簡単に見る方法があります。イネの葉は先端部が縦長の三角形になっています。この部分を見ると、葉脈の数が増えていくのを観察することができます。先ほど説明しましたように、イネの葉は先端からできてきますので、これは、維管束が増加している過程の名残と考えることができます。 

 単子葉類のように平行脈をもつ植物では、基本的に、イネと同じような過程で葉が成長し、葉脈が増えていくと思います。ただし、トウモロコシでは、大中小の3つの維管束の種類があるように、植物によって、少しずつ違う点があります。また、双子葉類(正確には真正双子葉類)は、網状脈を持っていますので、維管束のでき方はイネとは異なっています。

平野 博之(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2018-08-28
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